ジャンジャンバラバラ
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 08.パチンコ


 ――今日は大量の日だったなぁ。
 俺は珍しく好調で、手の中に余るほどの景品を抱えていた。もちろん、パチンコの景品だ。缶詰やよくわからねぇ甘そうな菓子、んでよくわからねぇキャラのぬいぐるみ。
 いやまったく、あんな場所がベストプレイスだとは思いたくはねぇが、たまにはいいもんだ。
 俺は上機嫌で炎への家路についていた。
 今日は天気までいい。ちょっと暑いが、青い空がバァーっと広がってやがる。夜中の大雨が嘘みてえだ。
 炎の扉をガラリと開けて、さぁて今日の夕飯は、と考えていたところだった。
 「あっ待て、竜っ!」
 旦那の声がイキナリ俺を制する。
 俺はあわてて足を止め、ふっと足元を見た。
 「ぼっっぼっちゃん!?」
 旦那と女将の息子、今年2歳になるぼっちゃんが、俺の足下をするりと抜けて外へ出ようとしている。俺はあわてて片手で止めた。缶詰が何個か転がる。
 「あーすまん、竜。…まったく、ちょっと手ぇ放したらこれかよ」
 旦那は苦笑しながらそう言って、俺からぼっちゃんを受け取った。
 「何してたんすか?」
「風呂に入れようとして追っかけたら、面白がって逃げ出したんよ」
 ぼっちゃんは旦那に抱えられながら、面白そうに笑ってる。
 「ハァ…。女将は? 今日は女将がぼっちゃんと入る日じゃ…」
「ああ、今日はアンナの誕生日だかんな。まぁオイラからのプレゼント…か?」
 どうなんだろな? と笑いながら、旦那はぼっちゃんの顔をのぞき込んだ。ぼっちゃんもつられてにへら〜と笑う。
 しかし俺は、そんな笑顔の父子とは対照的な顔をしていた…と思われる。
 「どうした? 竜。変な顔して」
「して」
 ぼっちゃんが旦那のまねをして続けるが、今の俺の耳には届かない。
 「た…誕生日…」
 女将の誕生日。すっかり忘れていた…!
 昨日までひとこともその話題が出てなかったし、俺がパチンコに出かけるときだって、何も言われなかった…。言い訳をするならいくらでもできたが、そおいう問題じゃねぇ!
 「だっ旦那ァ! 俺…」
「んお? 忘れてたんか?」
「へい…」
 しょぼんと縮む俺に、旦那は笑って言った。
 「別にあいつは気にしねぇさ。うめぇもんでも食わせてやれば、それで満足するだろ」
「はぁ…」
 旦那に無理やり家に上がらされた。
 けど居間に入って女将がテレビを見ているのを見た瞬間、やっぱり俺は何か渡さなければ気が済まねぇような気がして、せめて何か…と、パチンコの景品の袋をあさった。――缶詰なんて渡せねぇ。女将は甘い菓子よりしぶいモンが好きだ。かといってこんなわけのわからねぇぬいぐるみ…?
 俺は迷ったが、何もないよりは…!と意を決した。
 「女将! これ、誕生日プレゼント…!!」
 女将は俺のその声で振り返った。俺の差し出すぬいぐるみを見て、目を丸くする。
 「俺、何にも用意してなかったんすよ…。こんなのですが、受け取ってくだせぇ!」
 女将はしばらく何も言わなかったが、ふいに笑い出した。
 「別にいいわよ、プレゼントなんて」
 そう言いながら、ぬいぐるみを手に取る。
 「でもまぁ、受け取っとこうかしら」
 そう言って俺のうしろ側に笑いかけた。振り返ると、旦那が笑って見ている。
 「おお、貰っとけ」
「とけ」
 父子の輪唱。
 「でも、一児の母親にこんな可愛いぬいぐるみはないわよねぇ?」
 ――可愛い?
 女将はクスクスと笑っている。……まぁ、気に入って貰えたなら、何よりデス…。
 「じゃ、あたしはお風呂にでも入ろうかしら。その間に、おいしいご飯をヨロシクね、竜」
「おい、風呂なら今からオイラたちが入るんだが…」
「たまにはいいでしょ」
 女将は立ち上がって、風呂場へ向かう。
 旦那が嬉しそうな顔をして、女将の後に続いた。
 「…あ、竜」
 風呂場へ向かったと思った旦那が、ひょっこりと顔を見せた。
 「やっぱ、アンナは満足してたろ?」
「へい」
 そうっすね。
 ユルく笑って、それからまたにへら〜と幸せそうに笑って、旦那は風呂場へ向かっていった。
 俺の視界から消える直前、ぼっちゃんが笑顔で俺に手を振っていた。


 さて、じゃあ俺は、あの親子が風呂に入ってまったりしている間に、うめぇモンの準備でもすっか!





2003.7.22






懺悔。

ほのぼのチックを目指したのかも。
何が書きたかったって、一緒に風呂に入る親子なんじゃないでしょうか(笑)。

「パチンコ」なんてどうしようかと思いつつ、
アンナの誕生日に意地にでも書き上げたかったので、
竜さん主役(?)という無謀な賭に出ました。

花くん出てるのはかなり趣味ですね、もう。
でもまぁ2003年なら花くん2歳なんで、いいでしょう。(何が。)