ふたりの精神安定剤。


10.トランキライザー


「暑い…」
アンナが、ため息をつきながら言った。居間でふたりで麦茶を飲みながら、扇風機にあたる。
「暑いし、寝不足だし、サイアクだわ」
ほとんどひとりで扇風機を占領しとるくせに、アンナはぐったりとした様子で言う。
それを言うならオイラだって寝不足だ。
炎にはクーラーなんて高価なもん無いから、夜中は暑くてなかなか寝つけん――っていうのが、アンナの寝不足の一原因。(オイラは暑くったって、いつの間にか寝てる。)
でもオイラたちの寝不足の主原因は――。
――はんぎゃー
「……」
何とも形容しがたい、動物の咆哮の様な声が炎に響いた。
「――またか…」
「今度は何かしら……」
そう言ってアンナは、横で寝とるちっちぇえ生きもんに近づいた。
「どうしたの、花」
アンナは花を抱き上げて、あやし始める。
「おしめ…は濡れてないわね。ごはん?」
そう言ってアンナはオイラに背を向けてお乳をやり始めた。むぅ……母親だ。
「なんかそいつ、やけに泣くよなぁ」
オイラはアンナの背中に向けて話しかけた。
「そうね…。まぁ泣かない赤ん坊の方が恐いけれど」
まぁ、それもそうだ。精一杯の意思表示だもんな。
でもオイラたちは花の夜泣きがひどいせいで、最近寝不足になってるっつーのも事実なんよ。
「あら、もういいの?」
花は早々に満足したらしく、またくったりと寝ちまったみたいだ。
オイラは這いながら近づいて、アンナの手から離れて布団で眠りだした花の顔をのぞき込んだ。
何か知らんが…苦悶の表情を浮かべて眠っとる。もう少し安らかに眠れんもんか?
オイラは思わず吹き出してしまった。
「何で眉間にしわ寄っとるんよー」
「暑いからかしら?」
アンナは心配そうに、けれどどこか面白そうに花をのぞき込んでいる。
ああもう、なんか…――。
「かわいいなぁ」
オイラの子どもと、それから嫁さん。
暑いのもどっかに吹っ飛んじまって、オイラは思わず頬がゆるむ。
アンナは花のもちみてぇな頬にそっと触れた。
「この子のせいで寝不足で、暑くてイライラするけれど――」
イライラしとったんか……。
「この子の寝顔のおかげで、疲れが癒されるんだから…不思議なものよね」
アンナはふわりと笑った。ああ、これは母親の顔だ。最近増えた、アンナの顔。
オイラはそんなアンナに顔を近づけて、アンナの唇にそっと自分のそれをあわせた。短い、触れるだけのキス。
アンナは驚いた顔をして、オイラを見た。
「何なら、もう一人作るか? 子ど――」
「いいわ」
あっさりとアンナに却下された。
「一人で十分よ」
「うい……」
オイラはそれ以上何か言えるわけでもなく、頭を掻いてアンナから離れた。だって、オイラの子ども産んでくれるんは、あくまでアンナだし…無理強いは――なぁ?
「でも」
「ん?」
「あんたからのキスは欲しいわ」
「うえ?」
オイラは意外な言葉に驚きを隠せなかった。頬をかすかに染めるアンナに気付いて、オイラは思わず笑っちまう。
「そんじゃ、お言葉に甘えて」
そっとアンナに近づいて、オイラはアンナの身体をゆっくりと倒した。
暑くったって、こればっかりはやめられない。
ふたりで熱くなっちまえば、まわりの暑さも忘れるさ。


オイラのトランキライザー → 息子、そして……。





2003.8.7





懺悔。


何となく(何となく?)8月7日は花くんの日。
ってわけで、急いで書いたので……すみません、色々と。
支離滅裂な感じが…。

花くんだけに触れて終えようと思ったのに…ああ、やっぱり夫婦が甘々と。

ある時メールで、「花」って名前は素晴らしいほどに葉アンだけど、二人目生まれたらどうするんだろう…。
という話になり、そこから「二人目はないかもな」と諦めています(笑)。
きっとアンナさんがもう嫌がったんだろう、と……。
わたしとしてはもうふたりほど産んで貰いたいんですが(笑)。