炎への坂道。
白いガードレールが流れてく。
12.ガードレール
――あ。
学校の帰り道、まだあんまり道を覚えていないアンナとふたりで帰ってたら…。
目に飛び込んできた。
ガードレールの脇、寄り添うようにして座る男と女。
オイラたちと、そう年は変わらんと思うけど。
手ぇつないで、笑いあって、楽しそうで。とにかく……。
あれをバカップルと呼ぶんだろうか、と思った。
出雲じゃあんま見んかったけど、
こっち来てからやたらと目にする回数が多くなった気がする。
あ。男の手が、女の腰に回った。
女の方は、なんか嬉しそうに笑ってる。
「……」
ちょっと、羨ましい。
と、思った。
思って、驚いた。
オイラ、アンナとああいうコトしたいんか? 道ばたで?
手ぇつないで? 笑いあって? 腰に手ぇ回したり??
……あんま想像出来ん。
いや、オイラが手を握ろうとする。
そこまでなら想像出来る。
って言うか、アンナがこっちに来てから、家の中で何度もそうしたいと思った。
思って、でも、
…そこから先は、見事にオイラの頬にアンナのビンタがクリーンヒットすることしか思い
浮かばないんよ。
嬉しそうに……なんて、笑ってくれる…か?
くれたら、いいな。
けどオイラはアンナのビンタが……
いや、違う、そうじゃなくて。
アンナがそっぽ向いて、オイラから離れて行きそうなんが恐くて、手をつなぐことも、
ましてや腰に手ぇ回すなんてことなんかとても出来ずにいる。
アンナはどんな風に思って炎に来たんだろう。
一緒に暮らすって……
オイラは、心臓が口からポーンッと飛び出るんじゃないかと思うほどびっくりしたし、
めちゃめちゃうろたえたんだけどなァ。
アンナは平気そうだったよなぁ。
ボーっと見てたら、はっとふたりと目があった。
怪訝そうな顔をする。
悪い事をしたかと思って、オイラは頭を下げた。
ますます怪訝な顔をされたけど、まぁいっか。
「あんた、何やってんの」
「うぇっ」
横からオイラが考えていた当の本人の声がして、オイラは心臓が口からポーンッと飛び出
そうになる。いろんな意味で恐い相手だ。
「いや…別に」
「そ」
アンナは素っ気なく返事して、オイラをじっと見た。
「…?」
「あんたは…ああいうこと、したくないの?」
今度こそオイラは、心臓が飛び出してオイラを貫き殺すんじゃないかと思った。
ドクドク言っとる。いや、バクバクか?
いや、そんなんどうでもいい。
「な…っ」
「手を握ったり、抱き合ったり。あんたはイヤ?」
アンナのまっすぐな瞳が、オイラをとらえる。
曇りが無くて、透き通った瞳。
3年前からずっと変わらない、強い光をたたえる瞳。
「い、いやだ…」
一瞬だけ、そんなアンナの瞳が曇る。
「と、思うんか……? オイラがホントに、そういうことしたくないと思っとるんか?」
「……」
そんなん、嘘だ。
「オイラは今までずっと……きっと、態度に出とったに違いないのに。
ずっと、抱きしめたくて仕方ないって、身体全体が訴えとったのに。
イヤだって……そんなこと、本気で思うんか、アンナ?」
「…っ」
アンナの頬が赤くなる。
瞳が揺れた。
オイラの心臓も、ひどく震えた。
口ん中がカラカラだ。
自分でもこんな言葉が飛び出すなんて思ってなかった。
こんなこと…言ってしまったら、アンナはそっぽを向いて離れて……。
「おバカ!」
「うぇ?」
「そんなの、分かんないわよ。言ってくれなきゃ、分かんないわよ。
あんたのおかげであたしにはもうあの能力はないの。
言ってくれなきゃ……あんた、素っ気ないんだもの」
「……」
「いくらあたしが手を握って欲しいだとか、抱きしめて欲しいとか思っても…あんたは……」
「……っ」
そんなこと、思ってたんか? アンナが? オイラと…?
「アンナ……。オイラだって、言ってくれんと分からん……」
「うるさいわねっ! 分かりなさいよっ」
んなムチャな。
オイラはアンナが離れていかないか不安で、少しでも触れたら、触れた分だけ離れるかも
知れんと恐かったのに。
じゃあ例えば。
例えばここで、オイラがアンナの手を握ったら?
アンナは、あんなふうに笑ってくれるか?
嬉しいって、思ってくれるか?
「アンナ」
そっと、アンナの手に自分の手を触れさせる。本当に、触れるだけ。
一瞬驚いた顔をするけど、アンナの手はオイラから離れていかない。
そのまま、指を絡めて、ぎゅっと握った。
指先がヤケに熱い。
汗で手がべたべたする。
そのくせヤケに冷たかった。
「アンナ……」
「…何よ」
「い、いいんか?」
「何よいまさら」
「うん…」
そのまま、オイラたちは無言で歩く。
熱くて、冷たい手は、だんだんあったかくなってきた。
横目にガードレールが流れてく。
白い線が、どこまでもどこまでも。
炎まで、あともう少し。
もう少し、もう少し。
もう少し、もうちょっと、このままで。
2003.8.30
懺悔。
最近、初期の葉とアンナが気になってたまらない。
アンナがやってきてうろたえる葉とか、
蜥蜴郎戦でポロポロ泣くアンナとか。
どのあたりでラブラブになったのか、わたしの中だけでも色々説がありすぎて(笑)、
とてもひとつには絞れません。
手ぇ握るの(もしくはそれ以上)なんて、同棲する前にとっくに済ましてるよ、
ってのもひとつの理想なんですが。
こういうドキドキ感も捨てきれないのです。(笑)
よく考えると微妙に時期がズレてるんですが、あんま突っ込んでやらんで下さい。
初期はアンナ×葉的で素敵だ…。
にしてもガードレール。
あんまお題に沿ってないな。