手を伸ばし、繋がって、拡がって。
015.ニューロン
ふいに、葉の手があたしに向かって伸びた。
――明らかに、良からぬ意志を携えて。
「…なによ」
「いや、まだ喰いたらねぇなと思ってよ」
食器も片づいていない机の上を横目で見る。
どうしていきなりそんな気分になるのかしら?
「さっきまで夕食じゃなかったかしら、あたしたち?」
「ああ、そうだな」
悪びれもせずに言いのけ、葉の手はあたしへ伸びる……触れる。
指の先が、そっと足に触れる。
その瞬間に、葉の意志と、そこに秘めた熱までが伝わり、あたしは震えた。
伝達された情報が身体を駆け巡り、あたしを侵蝕していく。
入り込まれた。葉の意志に。――葉の欲に。
電気的興奮はそのまま性的興奮へと名を変え、足から全身へと震えを伝える。
鼓動が早まったのをさとられまいと、きつく睨む。
「何なのよ…」
「わかっとるだろ?」
お見通しとばかりに小さく笑う。
――いじわる。
指先を掌に変えて、葉は更に伝えようと躍起になるかのようにいやらしく足に触れた。
「やめて…」
「…何で」
もう十分なのよ…全身にくまなく渡りきった興奮は、既に声をあげてあんたを求めてる。
「もう……いいから」
そっと手を差しだして葉に触れたら、勢いよく腕を掴まれ引き寄せられた。
近づいた身体を自ら引き寄せようと、葉の首に腕を回し、抱きつく。
なのに無理やり引き離され、顎を取って強引に口付けられた。
「ん…ぅ」
歯列を割って舌が滑り込み、無意識に逃げようとしたあたしの舌を捕らえ、絡ませてくる。
逃げることも、自分から絡ませることも出来ずに、ただ為すがままにされて、小さく呻くことしかできない。
頭の中が真っ白になる。
葉から伝わった激しい電流が、あたしをしびれさせて、捕らえてしまった。
動けない……逃げられない。
葉が与える刺激が激しくなるにつれ、息苦しさが増し、頭が正常に働かない。
少しでも逃れようと、わずかばかりの抵抗を見せ押し返したら、ようやく葉が舌を抜いた。
空気を求めて、肺が激しく上下する。
「やりすぎよ……ッ」
本当は怒鳴ってやりたいのに、それすらできない。
葉は余裕の笑みを返した。
また軽く口づけながら、囁く。
「もう溺れちまえよ、アンナ…」
心臓が、一気に跳ね上がった。
悔しい。
悔しいはずなのに、言葉通りこの男に溺れている自分が悔しい。
睨み上げたら、微笑まれた。
――こんな時でもユルイ態度を崩さないのね、あんたは。
悔し紛れに抱きつき、口付けるついでに唇に噛みついてやったら、
「ぃてて」
と、葉が嬉しそうに笑った。
――さぁ、あんたはこの刺激をどう受けとるの?
嬉しそうな、それでいて獲物を狙うかのような瞳であたしを見つめ、葉は電気的信号に忠実に従い、あたしを抱いた。
2004.3.9
懺悔。
言い訳はしません。
情事に至るまでの夫婦が書きたかっただけです。(笑)
結局最後までニューロンが謎のまま。
とりあえず刺激等を伝える神経細胞単位…だよな、たぶん。
手を伸ばし、繋がって繋がって、情報を伝達するやうです。