葉の破れた戦闘服を見つめる。
直すべきか、新しいのを作るべきか、悩んで結局新しい生地に手を伸ばした。
成長している身体には、新しい方がいいかもしれないから。
1.サイズ
新しく作った戦闘服は、前の物よりすこしだけ大きくした。
あたしより少し大きな体。抱きしめられたら案外すっぽりと収まってしまう。いつの間に成長したのかしら。一緒に住むようになってからは、少しずつ、でも確実に大きくなるその速さが分からなくなってしまった。
作り終えた戦闘服を、パッと両腕を前にして掲げる。
「こんなもんよね…」
誰にともなく呟いて、服を眺める。葉の身体の大きさが分かるようで、不意に恥ずかしくなった。何故か腕の温もりや声を思い出してしまう。軽く鼓動が速まるのを感じ、あたしは慌てて腕を下ろした。誰も見てないのに照れる必要もないのだけど。
…誰もいない、ということが自分を少し安心させた。葉はジャージを着て外で修行しているし、サムライの霊はどこか出かけている。
あたしはそこまで考えて、誰もいないことを再認識し、そっと戦闘服に腕を通した。
着心地を確かめる為よ、と自分に言い聞かせながらも、それだけじゃないことは自分が一番分かっている。
「大きい…」
着てみたところで自分とはサイズが違うから、葉にこれでいいのかよく分からない。肩幅が大きすぎる気がするのだけど、前の物とそんなにサイズを変えたわけじゃないから、たぶん葉にとってこれでいいはず。
ずっと、同じくらいの身長や、体つき、だと思ってたけど…
「そういうわけにもいかないわね」
あたしはため息をついた。あいつばっかり大きくなるみたいで悔しい。体も、心も。
「…」
不意にもの悲しくなって、あたしは服を脱ごうと襟に手をかけた。布に身を包んで心が寒くなってるなんて笑い話にもならない。
脱ごう、とした瞬間に、スパンッと襖が開いた。
「アンナぁージャージも破れ…え!?」
「…っ」
葉はあたしを見つめたまま静止した。あたしも言葉も出ずに固まる。――修行してたんじゃないの、とかノックくらいしなさいよとか浮かんだ言葉よりも先に出たのは
「調子のってんじゃないわよ!!」
だった。同時に針山を投げつけたら、慌てて葉がよける。
「すっすまん…てか何がだよ!?」
一度は謝罪を述べた葉も、さすがに不当と思ったのか声を荒げる。
「あたしがそうやすやすあんたの服の破れを直すと思ってんの!?」
葉の服を着ている。それを見られた事実に耐えられず、あたしは無関係なところで吠えまくった。
「ついでだしいいだろ!? つうか何でオイラの服着てる…っ」
「うるさいっ!!」
言うんじゃないわよそれを! 怒りと恥ずかしさでわけがわからなくなる。
「な…何だよ…」
「服のサイズはかってただけ!」
「だったら怒らんでもいいだろうが」
「怒ってなんかないわよっ」
恥ずかしいのよ、ひたすらに! 服のサイズをはかっていたことに嘘はないけど。嘘はないけど、隠したい事はある。置いていれたような寂しさと、何よりも葉に触れたい愛しさが溢れていた。それを全て見られたみたいで、恥ずかしい…!
「…」
言葉が出ないあたしを、葉が戸惑った表情で見つめていた。
「アンナ…」
葉がおそるおそると言った様子で声を出した。「何かしらんが、照れて、る…?」
「…っ」
ズバリと指摘されて、あたしはうろたえた。
「やっぱそうか? いや、戦闘服は意外に似合っとるぞアンナ」
と、唐突に的外れなことを言う。一瞬意味が分からなかったが、似合ってるかどうかが照れる要素と思ったらしい。…鋭いのか鈍いのか、どっちなのよあんた。
「バカ言わないで。何を照れなきゃいけないのよ、このあたしが」
葉のマイペースさに引き込まれ、あたしもつい、いつものペースを取り戻した。フンッと鼻を鳴らしながら、冷静を装える余裕を持って戦闘服を脱ぐ。そんなあたしを見て、葉がいつものユルい笑い声をあげた。
「いや〜アンナ何か可愛くてさ、オイラちょっとドキドキしちまったぞ」
「…っ!」
パァーンッ
「ってぇー!」
「バカ言わないで」
あたしは髪をかき上げ、葉をにらみつける。
…でももしかして、あんたはそんな言葉すらわざと言ってるの? あたしが何かしらに照れていた事から、少しでも心が離れられるように。
「ほんとにそう思ったんだから仕方ねぇだろ…」
…ただの本音だったのかも知れないけれど、と思い直す。
けれど本当にそう思って言ったのだとしたら、と考えると、不意に恥ずかしくなった。可愛いだなんて、他の誰に言われたって嬉しくないけど、あんたにだけは…。
「…早く、ジャージよこしなさいよ」
「うえ、いいんか?」
あたしの言葉に、葉が素っ頓狂な声を上げた。
「気が変わらないうちに貸せば?」
「うい」
葉が素直にジャージを差し出す。受け取る瞬間に指先が触れドキリと心臓が跳ね上がり、柄にもなく思わず手を引っ込めた。同時にジャージがぱさりと床に落ちる。
「…」
葉が自分の手を見つめ、次にあたしを見た。
「わ、悪かったわね」
ジャージを拾おうと手を伸ばしたら、その腕を取られて急に力強く引き寄せられた。気づけばあたしは葉の腕の中にいる。
「…!」
「ちっちゃいな、アンナ…」
「…悪い?」
「いや…」
葉が大きく息をつく。あたしは息苦しくて、そのまま動けずにいた。
「…あたし、あんたが大きいんだと思うわ」
「お前が小さいだけだろ…」
「標準規格よ」
「オイラは男子ん中じゃ小さいぞ」
「そう…?」
「おお」
馬鹿な言い合いをしてみる。抱きしめ合って互いの鼓動を感じているのに、出てくる言葉は甘くもない。けど…――
「でも、誰よりも格好いいわ」
少しだけ素直になって、言葉を紡ぐ。
「いや、それは分からんが…」
ぎゅっと抱きしめられ、身をあずける。
「お前は可愛いよな…」
「…知らないわ、そんなこと」
「ウェッヘッへ」
少し照れた様子で笑い、葉は腕の力を少しだけ強めた。息苦しくて、つぶされてしまいそう。
「…じゃあ、ね。あたし、ジャージなおすから」
「うい。戦闘服、すまんな。礼を言うぞ」
「ならそれ着てとっとと修行してき…――」
顔を上げた瞬間、不意に口付けられ、あっけに取られる。
「…うし。じゃ、修行してくるか〜」
勝手な行動に、一気に怒りがこみ上げた。あたしが恥ずかしがるってこと、分かってて行動に出てるでしょ!?
「さっさと行け!」
思いっきり蹴りつけて、葉を部屋から追い出す。「うおっ」だとか何だとか言いながら、葉は階段を転がり落ちるように消えていった。
――葉ばかりうわてで、あたしより大きくなっているようで、それが無性に悔しい。距離が引き離されているよな、でもあいつがあたしに舞い戻ってきてくれているような。
悔しくて仕方ない。けどあたしは、もしかしたらそのサイズの違いを、少し心地よく感じているのかもしれない。
懺悔
少し乙女チックアンナかも…。
でも普段書かないような、をテーマにしてるので良いかな。
…つうかただのバカップルじゃんこれ。(笑)
旦那の服を着る嫁…ではあったけど、少しずれたかも…すみません。
でも楽しかったですv(おい)