5.涼を求めて

「ああ、やっぱ夏はいいよなぁ。女は薄着になるし、何よりオレらもラクな格好でいられるし…」
そう言うホロホロは言葉通りランニングシャツ一枚のラフな格好で、「炎」という夏場には少し鬱陶しくも感じられる名前の元・民宿でくつろいでいた。「暑いけどな」
「お前はいざとなりゃ氷が出せるしいいじゃねぇか…」
同じく、彼にしては珍しいランニングシャツ一枚の格好の葉が、扇風機の前でうだりながら言った。「この家、クーラーもねぇんだぞ」
「ビンボーはお互い様だ」
はっはと笑い、ホロホロはうちわを動かした。
「フン、貴様らは修行が足りん」
「うるせぇよカタブツ」
「ほほう、ケンカなら買うがな」
「やるってのか」
「おいおい、ただでさえ暑いんだから止めてくれ」
葉の言葉にもっともだと思ったのか、ふたりは持ち霊を従えにらみ合ったまま、手を止め座り直した。
「あーもうあちぃなぁ」
どうやら先ほどの「夏はいいなぁ」発言は強がりだったらしく、ホロホロはようやく本音を見せた。
「水浴びでもしてぇ…暑い」
その言葉にぴくりと眉を動かし反応した辺り、蓮も興味を持ったらしい。
「水浴び…」
葉はその言葉を口の中で呟き、くるっと振り返った。「すればいいじゃねぇか、水浴び!」
ホロホロは葉の発言に驚いた顔を見せた。
「いいのか? 水道代が高ぇとかなんとか、お前のヨメがうるせぇんじゃねぇのか」
「今ちょうどたまおと出かけてるし、黙ってりゃ大丈夫だろ」
葉は目を輝かせそう答える。「ヨメ」という言葉に反論もしないのはさすがと言うべきだろうか。
ホロホロは世の中のオットという存在はこうやって高をくくって、浮気がバレるんだろうかとチラリと思った。何にしてもこの家の主のせっかくの申し出を断る理由はない。
数分後には庭にホースを持ってたたずむ蓮の姿があった。
「オレは浴びない!」などと言い続ける蓮に痺れを切らした面々に、それならホースを持てと命じられたのだ。
「蓮、水出してくれー」
蓮はボンヤリとホースを眺め、その管の先を辿っていき、たどり着いた蛇口で目を止めた。
「なぜ俺がこんなことを…」
「お前が水浴びしねぇって言うからだろ」
「…」
期待の眼差しで水がまかれるのを待つ連中に何となく腹が立ち、蓮はホースをホロホロに向けて、勢いよく蛇口をひねった。
「ぐおっ!」
水が顔に威勢良くぶつかってきて、ホロホロは地面に立ちながらにして溺れたような感覚に陥った。
続け様に葉もその水の襲撃を受け、死にそうな目に遭う。「うぉぉぅ!」
「コルァッ蓮! てめぇ何考えてやがんだ!」
「すまんな、うっかり手が滑った」
フフンと鼻を鳴らしてぬけぬけと言い放つ男に、確かにホロホロがブチリと切れた音がした。
「フザケんなーッ!」
…のち、暗転。

「…で。この惨状は何なわけ」
買い物袋を下げたアンナが、低い声で言った。
「水浴びをしてまして…」
恐る恐る葉が進言する。
「そうね、まぁそこまでは百歩譲って一旦置いておきましょう。で、これは?」
ニコリと笑うアンナの顔は、辺りに漂う冷気を一層強めた。
「えーだから、ホロホロが、技を使っちまって…」
「炎が氷づけになった、と」
「ハイ…」
「このバカども!!」
複数形で言い放ち、ビンタが全員に飛んだ。後ろではたまおが惨状を目にして震えている。
ホロホロの繰り出した技のおかげで、炎の柱は氷柱になっていた。床も、もう少し広ければスケートリンクともなりうる状態だ。これを溶かすとなると、炎が水浸しになるのは言うまでもない。
ビンタを食らった本人達も服や髪が半分凍ったりしている。
「ぜんっぶ、綺麗に、元通りにしときなさいよ!」
アンナは最後にそれだけを言って部屋を出て行った。
「…」
「どうするよ、これ」
「知らん」
「お前の技でなんとかならんのか」
「全部雪にしちまうってのはどうだ?」
「余計怒られると思うぞ」
あれこれと対策案を練ってみるも、どれも彼女のお怒りの顔が次に浮かび、うまく集中できない。
しかし一同に思うのは、ホロホロの氷のおかげか、彼女の怒りのせいか、やたらと涼しくなったなぁということだった。