アイソウマミー・キッシングサンタクロース
オイラはサンタなんか信じちゃいない。
別に、ひねくれたり何もかも知ったような顔で、大人ぶってこんなこと言ってるんじゃない。そりゃ世界は広いんだ。赤いカッコの髭はやしたじいさんが夜中にプレゼント配ってる国だって、どっかにあっても不自然じゃない。(たぶん。)
ただ、オイラは、この家にサンタが来るなんて思っちゃいない。
オイラがこうやってかたくなにサンタを否定するにも、それなりの根拠があるんだ。
実は去年までは信じてた。オイラだってまだ5歳だったんだ、仕方ない。うん。
23日にもうるさかったけど、24日の昼間なんてのはオイラのドキドキは最高潮だ。夜になったらサンタがやってくる。オイラ一年間かしこくしてたから、プレゼントだって置いていってくれるはずだ。
そう思っても、もしかしたら来てくれねぇかも…と思って、しつっこく母ちゃんに聞いては怒られた。
「なぁなぁ、サンタ来るかなぁ?」
「来て欲しいの、あんた? あんなうさん臭いへんた……」
「く、来るさ、花!! なぁアンナ!!?」
父ちゃんが慌てて取り繕う様に言う。母ちゃんは冷たい目で父ちゃんを一瞥して、オイラを見て、
「来たらいいわね」
と、ひとことだけ言った。今から思えばなぜあの時に、オイラがサンタの存在を疑わなかったのかが不思議だ。
とにもかくにも、オイラはサンタを信じてた。その夜までは。
「花、早く寝なさい」
母ちゃんにそう言われて、オイラは壁にかかる時計を見た。もう9時…――。
「早く寝ない悪い子には、サンタなんか来やしないわよ」
「い、やだっ!」
「だったらさっさと寝なさい」
母ちゃんが笑って、オイラに手を差し出す。おとなしく手を握って、布団に向かった。
「母ちゃん、ホントにサンタ来るかなぁ?」
「さぁ? あんた次第じゃない?」
「えー」
「はい、寝なさい」
母ちゃんは笑う。サンタが来るかどうかは、オイラにとったら大問題なのに。
布団に深く潜った。こうなったら、朝まで完全に目をつぶって起きないようにしようと決め込む。どうか朝起きたら枕元にプレゼントが置いてあります様に……!!
「…母ちゃんおやすみ」
「おやすみ」
母ちゃんはオイラの髪を一回だけそっと撫でて、静かに部屋を出て行った。
それを最後に、オイラはこの夜目を覚まさなかった……っていう展開を望んでたんだけど。
そう思うとなかなかうまくいかないもんで。
オイラは夜中にふっと、目を覚ましてしまった。
「ん……?」
ガサゴソ聞こえる物音と話し声で、オイラは目が覚めた。しばらくぼんやりとしてたんだが、ハッと気付く。――サンタかも!
オイラは目をパチッと開いた。枕元を慌ててチェックする。暗いけど、そこにプレゼントがあるのはちゃんと見えた。――やった!
けど、光が差し込んでいるのにふと気付いて、首をかしげる。
「――?」
オイラはそっと起きあがってみた。目の前のふすまが、ほんの少しだけ開いているのが見える。光は、その透き間から漏れた廊下の電気だったんだな。
物音は廊下から聞こえる。
オイラは布団からそっと這い出した。足音をたてない様に、慎重に、静かに、ゆっくり歩く。
ふすまの透き間から廊下を覗いて、オイラはあっと声をあげそうになった。
サ、サンタが…いや、母ちゃんが…いやサンタが……いやどっちでもいい、とにかく母ちゃんとサンタが……キス……!?
えええ!?
頭ん中でガーンガーンと、鈴ならぬ鐘の音が鳴り響く。な、何でサンタが…母ちゃんと……。
「ん…ちょっと、もう…」
母ちゃんがサンタから離れた。サンタの服と同じくらい、赤い顔をしてる。
「ん?」
「ひげ…くすぐったい」
「おお、そうか」
サンタは髭の中で笑った……気が、する。(よく見えねぇけど)
「取った方がいいか、髭?」
――取りはずし可能なのか!?
「別に…いいけど? そのままでも」
母ちゃんは笑って、髭を撫でている。オイラの髪を撫でたのと同じくらい…もしかしたらそれ以上に、優しい手つきで。
「それよりこんな衣装、どこから手に入れたのよ」
「いや、何か知らんが竜が持っとった。何でも使うに使えなかった事情があるらしくって…」
「何に使う気だったんだか」
クスクス笑いながら、母ちゃんはサンタに抱きついた。サンタは…――いや、もうオイラにも分かっていた。このサンタは、父ちゃんだ。
父ちゃんは母ちゃんを抱きしめながら、少しくぐもった声で笑う。
「花が目ぇ覚ました時に、本物のサンタっぽくした方がいいかと思ったんだが…すやすや寝とったな」
ああ、オイラその気配で起きたんだな、たぶん。
「このカッコも無駄かな…」
「あら、あんたあたしにはプレゼントくれない気?」
「ん?」
「プレゼント頂戴よ、サンタさん?」
母ちゃんはニッコリ笑う…。か、可愛い……!
「ウェッヘッヘ、んじゃあサンタからのプレゼントとするかぁ!」
父ちゃんサンタはめちゃめちゃ嬉しそうな声でそう言って、母ちゃんを抱き上げた。おお…そんな力持ちだったんか、父ちゃん!
そのまんま、ふすまの透き間からは見えないところへ行ってしまった。たぶん部屋に戻ったんだろうな…。
オイラはドキドキしていた心臓を抑えた。
あんなに可愛く笑う母ちゃんなんて見たこと無かった。あんなに力持ちな父ちゃんだって、見たこと無い。そんな、オイラの知らない姿ってあるんだ。
オイラは仲間はずれにされたような気がして少し寂しいのと、ふたりが仲良くて嬉しいのと、両方を抱えて複雑な気分になった。喜んでいいのか悲しんでいいのか……。
しばらく襖の前に座り込んで呆然としてたけど、自分の口からくしゃみが飛び出した時にようやく、「ああ、サンタって嘘だったんだな…」と、オトナたちに騙されていた事に気付いた。
寒くて震えだした身体をガシガシッとさすりながら、オイラは布団に潜り込んだ。
枕元にあるプレゼントは、明日にでも開けてみよう。偽サンタさん、ありがとう。
そう思っているうちに、オイラは眠っていた。
その日以来、オイラはサンタなんか信じちゃいない。
そりゃ、どっかには本物のサンタがいて、夜中にプレゼント配ってるかも知れないけど。(できればそうであってほしいけど。)
少なくともオイラの家には、オイラにプレゼントを運んで、そして母ちゃんを可愛くするすげぇ魔法を持った、赤い服着て髭を生やした父ちゃんしか来ない。
サンタなんてそんなもんで、たぶんオイラはそれで満足している。
懺悔。
タイトルそのまんまです、ごめんなさい。
「ママがサンタにキスをした」
いい曲ですよねぇ…。(笑)
ひねりも何もなくて申し訳ないです。
子供心に何となく傷つきながらも嬉しい複雑な心境な花くんが書いてみたかった。
このあと夫婦はクリスマスを満喫したに違いないです。(笑)