トラワレ


 愛しい女がそばにいるというのは幸福に違いないが、それは毒をも孕んどるんではないかと思う。
 手を伸ばせば届くと思うと、一層貪欲に求めちまう時がある。
 自分を蝕んで、追いつめて、雁字搦めにして、それでも浮かぶのは嫁の白い肌なのだから、間違いなくオイラは彼女に犯されとる。
 こうして部屋に彼女を閉じこめ、一日中手を縛り身体を愛撫し、その白い肌を自分の精液で汚して、汚して、中までオイラで埋め尽くして。
 その先に一筋の光でも見いだせるなら救われるってもんだが、延々続くのは闇。その中の彼女の肌だけが光と言や光だが、それもどっちかっつうとオイラを惑わす誘引灯なんじゃねぇかな。ますますオイラを闇に追い込み深みに填らす。
 アンナを部屋に監禁して、縛って、良いように身体を貪って、それからどんだけ経った?
 元はいつも通りと言やいつも通りだった。
 学校から帰って、オイラの身体はどうしようもないほどにアンナを求めて騒ぎだした。制服のまま身体を重ねることは珍しいことでもないが、どういったわけかオイラはアンナを部屋に閉じこめ、そのまま犯した。
 最初は狼狽え、抵抗を見せたアンナも、2度3度と高みへ導いてやってるうちに、その意志も身体から流れる液体と一緒に抜け落ちちまったようだ。オイラはほとんど動かない、(動きたくても動けない)、アンナの腰を掴まえ固定して、奥を良いように突き上げ果てる。
 こうやってアンナを拘束し、好きなようにしてやろうと試みたのが金曜の夕方って辺り、狂ったように彼女を突き刺す自分は意外に正常なのかも知れなかった。
 オイラより先に何もかもを手放したかのように見えたアンナだが、彼女もまた正常なのかもしれない。
 オイラがアンナの奥を押し上げ、孕まそうって訳じゃねぇんだがそこで自分の種をぶちまけたら、逃さんとするように中をひくつかせオイラを締める。両腕を縛ってるというのに、抱きしめられたような感じだ。柔らかな女性器でもって抱きしめられたら、ある意味その強さは男の腕力以上だ。逃げられるはずもねぇ。
 どろどろの白い液も彼女の中で薄くなり、それでも飽きずに腰を振る。
 何度も吸い付いた赤い唇は、オイラにその潤いを搾り取られたっておかしくねぇのに、濡れて濡れてオイラを誘う。オイラはそれに抵抗せず、誘われるままにその実に噛みついた。
 途中で回数が分かんなくなっちまってから、更に何回もアンナの中に吐き出した後、アンナがやっと、こぼれるあえぎ声をかすれた言葉にかえた。
 「――たま、には……」
 久しぶりに聞いたアンナの、意味を持った声を聞こうと、オイラは吸い付きかけた赤いそこに触れる寸前で動きを止める。
 「たまには、あんたに捕らわれてやるのも悪くないわ……」
 アンナは小さく、息を吐くと共に呟いた。
 普通、許嫁に突然縛られ監禁され犯され続けりゃ絶望したっていいはずだが、アンナはそんな様子を微塵も見せない。平然とはいかないが、冷静に現実を受け止めているようだった。――逃げられないという現実を。
 オイラの液にまみれて小さく寝息をたてだしたアンナを眺める。
 胸の突起に噛みつき無理やり起こしてやっても、寝てるアンナを犯し続けても、オイラとしてはどっちでもいいわけだ。オイラに捕らわれたアンナは両腕を拘束されたまんまで、身体はオイラの下に組み込まれたまんまで。誰かを呼ぼうにも呼ぶ相手はいないし、外へ逃げ出す分には不都合な格好だ。
 けどそんなことじゃなくて、オイラはアンナが逃げていかないってことをどこかで知っていた気がする。
 ――どうやったって逃れられないのは、たぶんオイラの方だ。
 こんな無茶をしでかしたのに、責める言葉一つも告げずにオイラの下で眠るアンナ。狂った男を受け止める女の肉の柔らかさ。絡みあう素足の心地よさに、叫びそうになる。
 バカなことをしでかしたもんだと思いつつ、もう二度としないとは言い切れない自分がいた。――どっちが捕らわれた身なんだか。
 せめてもの罪滅ぼしに(もなりゃしないが)、適当に結びつけた制服のネクタイをはずしてやった。痛々しいほどに変色した手首を舐めてやり、腕をそっと身体の横に添えてやる。男に汚され裸で眠る彼女は、それでも美しさ以外のどの表現で表せばいいのか分からなかった。
 アンナの傍らに横たわり、色んな液体で濡れた布団に苦笑する。
 ずっとこうして、彼女を閉じこめていたい時が突如現れ、やがてその衝動は消え、そしてただ身体を重ねた回数だけが無駄に増える。
 それは彼女が消えるかも知れんという不安が沸き上がるのとほぼ同じ時と言って良いと思う。恐怖と性欲が混じったらこういうことになった、それだけのことかも知れん。
 ――それでもどこかで、自信があった気もする。こんなオイラすら、彼女は受け入れてくれるんじゃないかと。
 彼女の背中を見たくないってだけで、上を向かせて無理やり喘がせるっつうのも矛盾しとるが、否定をせんアンナにも責任はある、などと半分本気で考えつつ、オイラは許嫁の身体を引き寄せた。
 一生オイラを捕え続けるであろう彼女に、せめてもの仕返しを。
 それでも胸を締め付けるのは、彼女への愛おしさと共に、沸き上がった罪悪感だった。
 ※
 不意に目覚めたら、葉はあたしを抱きしめ、見つめていた。
 この愛しい許嫁に縛られ犯され続けていたのは趣味の悪い夢かと疑うが、腕に残る痛みより何より、体の中に残る葉の形跡が夢ではないと悟らせる。
 動けば溢れそうなほど種を宿され、けだるい痛みが下腹部を支配する。
 それでもこの男の眼差しは優しく、そしてどこかで詫びていた。
 つまらぬ罪悪感に呵まされているだろう。あたしを縛り、弄んだ罪に。
 あたしはそこをつついて、彼の意識を罪で汚すことだってできる。あたしが彼を泣いて責めれば、それも簡単なことだろう。
 しかしそういった気持ちが少しも湧かないというのは、彼を盲目的に愛している証なのか、それとも自分が案外にこの状況を楽しんでいるということなのだろうか。
 いつの間にか解かれていた腕を葉の身体に巻き付かせ、拘束されていたはずのあたし自ら、犯人にすり寄る。この状況からの脱出などその気になれば容易いはずにも関わらず、彼の全てを許す行動に出るのもその証なのか――。
 彼の性欲なり独占欲なり、剥き出しにされた欲につき合うあたしもかなりの酔狂と言ってしまえばそれまでだけれど、その彼の狂気じみた欲を満たせるのは自分だけだという自負に震える、ただの女だと言えば同情も得られるかもしれない。
 そう伝えると、葉は複雑そうな表情を浮かべたが、嬉しそうだった。
  「――もう満足したの…?」
 あたしは彼の腕の中でそう尋ねる。しかし葉はわずかに顔を歪ませた。
 「…すまん」
 葉のその言葉で、あたしはまだ解放には至ってないことを悟る。
 腕の拘束は取れても、身体は監禁されたまま。魂がこの男の言葉に従い抜け出せないのだから。
 ――つまるところ、最初から腕を縛る必要なんて無かったのよ。
 詫びなんていい。いらない。
 けど決して、自分から抱いてとも言ってやらない。それがせめてもの仕返し。あたしをここまでに捕らえた仕返し…――。
 「葉……」
 そっと囁き、唇を寄せる。熱い息が触れ、互いの舌が自然に絡みあう。わざと音をたてて舌を交じらせる。
 燻っていた黒い塊に、再び火がともらせてやる。あたしから言葉をかけないことで罪の意識を埋め込んで、その意識の傍らであたしを抱く男に無上の喜びを感じる。
 何だって良い。少しくらい身体が壊れそうになったって、腹の中に何が宿ったって。
 あんたがあたしを愛してくれるなら何だって良い。
 だから、ねえ葉。

 あたしだけ愛して、あたしだけ捕らえていて。









懺悔。


捕らえ捕らわれる夫婦。
題名は、トワイエっぽく。(笑)

独占欲とその結果の話……あまり深く考えないで下さい。
こんなにいかがわしいお題なのに(笑)、あんまりエロくならなかった…不健康にはなったけど。
つ、つぎこそは……!(まだやる気)