葉さんの不満、アンナさんの不安

 

アンナが麻倉の家から帰って以来、食卓の上には毎日同じメニューが並んでいた。

緑、緑、緑。ぬるりとした緑色が山盛りにされた皿。

無言のまま箸を取った葉は小さく溜息をついた。

「なんで毎日わかめなんよ?」

そう、それはわかめと呼ばれる食品だった。ビタミンとミネラルを豊富に含んだ海藻。カロリーは低く健康的。

頭の中でそんな知識を並べながらチラリとアンナに目をやって、葉は少しどきりとした。ちゃぶ台の向こう、頬杖をついて溜息などついているのは最愛の妻―ごく正確に言うなら婚約者―のアンナである。伏せられた長いまつげとうなじにかかる細い髪がその物憂げな様子と相まって妙に色っぽい。何を今更ドキドキしているのかと自分でも気恥ずかしく思いながら葉は少し目をそらした。

同時に少し不安になる。何か深刻な悩みでも抱えているのだろうか?自分の出自や悩みを良く理解している分アンナは彼の重責を黙って肩代わりしてくれているときがある。無理をしてしまうことも知っているから、葉は一時自分の不満は横に置いてアンナに問いただしてみることにした。

「あの…アンナ?」

「…何?」

濡れた黒い瞳が葉に向けられる。

「え、えーと…何か悩みでもあるんか?おいらでよければ相談に…」

ごくりとつばをのみながら尋ねると、アンナは更に深い溜息をついた。

「…心配なのよ、あんたの…」

アンナの細い指が葉の黒髪に触れた。

「髪が」

「…髪?」

「そう、髪」

そう言ってアンナは葉の髪をぐいと引っ張った。

「いてっ!」

「…毛根はまだしっかりしているようね」

「はい?」

今ひとつ事態が飲み込めない葉にアンナはどこから出したのか二枚の写真をぴっと差し出した。

「…へ?」

受け取るとそれは祖父と父の写真だった。

「よく見てみなさい」

「…」

まず祖父の写真を見てみる。別に何の変哲もない写真だ。いつも通りよくわからない浮遊霊のようなものが一緒に写っているが、それだけである。

次に父の写真に視線を移した。相変わらず仮面を付けているがどうやら笑っているようだ。カメラに向かって勢いよくピースしている。肩になにやら黒っぽい影のようなものが写っているが、ままあることだ。

もの問いた気な視線を向けてもアンナは気付かず溜息をつくばかりである。葉は再び写真に目を落とした。

キーワードは髪。わかめ。心配。

「アンナ殿…もしや…生え際ですか?」

背後からのぞき込んでいた阿弥陀丸が吹き出しそうになるのを堪えながら尋ねてきた。

「生え際?」

「…そうよ、生え際!」

「生え際?」

一人キョトンとした表情で葉は写真の祖父を見た。横になにやらもじゃもじゃと毛が生えているが、てっぺんは見事なはげが輝いている。そして父。髪が丁寧になでつけられているその額はなんだか…。

「後退してる…?」

ついに我慢できなくなったらしい阿弥陀丸がぶはっという笑い声を残して姿を消した。

「あ、あの…アンナ?」

わかめ。ビタミンとミネラルが豊富な食品。…一説では髪に良いという。

後退した生え際とはげ。

「もしかしてこのわかめって…おいらの髪のためだったり…?」

アンナはコクンと頷いた。

 「もちろんそうよ。髪は男の命!将来に渡る髪の健康のために毎日わかめを!…常識よ?」

どこの広告で読んだのだろうか、棒読みでそう告げるとアンナは葉の額に視線を這わせた。あわてて葉が額を抑える。

「お、おいらはまだ平気…」

「危険ね」

アンナの呟きにそこはかとなく傷つきながらも葉は小さな笑みをこぼした。馬鹿馬鹿しい方法ではあったけれど彼女なりに彼を気遣ってくれていたわけだ。

 「ってもな、アンナ、おいら一応成長期だからわかめだけってのはよくないと思わんか?」

「…まあそうね」

額にしわを寄せながらアンナが答える。あまりに一方的な考えに少し照れているらしい。

「肉も食いたいんだけど」

「わかったわ」

「ついでにアンナも」

「…」

葉は逃げられないようにゆっくり近寄ると甘えるようにアンナの顔をのぞき込んだ。アンナの手がそっと葉の髪に触れる。抱きしめられるとアンナの身体から力が抜けた。

「考慮しておくわ」

小さな呟きを最後にアンナの身体が床に倒れ、言葉は失われた。

 

さて、後日。

いつものごとくいつものメンバー―アンナに言わせると下僕たちらしい―が葉の家に招集されていた。

「そういうわけで葉のために作り置きしておいたデザートが余ったわ。お食べ!」

えらそうにそう告げるアンナの前で少年たちは無言で視線をかわした。

(む…これは何という食い物だ?)

(食べ物と言っていいのかな…?)

(作り置きはまずいんじゃねえの?仮にも生ものを…)

(姐さんの手作りだ!)

約一名は感激しているが、デザートは概ね好評とは言いかねた。それもそのはずで、アンナ考案の「髪に優しいデザート」は見た目からはっきりと悪かった。

透明な寒天の中にわかめがどかっと盛り込まれ、ぶつぶつと黒い何かが混ざっている。

「…こ…これは…?」

まん太が勇気を出して尋ねるとアンナは当然だと言いたげに腰に手を当てた。

「ひじき」

「…」

少年たちは目を見交わすと、無言のかけ声と同時にスプーンを口に付けた。とにかく完食すること。それが彼らの課題だった。

「…どう?」

一応評価は気になるらしいアンナが尋ねる。

「…えー…こうグチャッとコリッとした食感で…」

「甘いかと思えば味がなく…」

「飲み込むのに一苦労な感じの…」

口々に感想を述べる少年たちはアンナの握り拳が固められ、左手が数珠に伸びたことに気付いて冷や汗を流した。

「「「非常に結構なお味です」」」

ちなみにこの時美食王の蓮はスプーンを口につっこんだまま白目をむいていた。

彼らがこの日無事に生還したのかどうかは誰も知らない。

 









あとがき?

書いてみたよ…?すごい勢いで書いたので所々おかしいかも。もう読み直す気力もない。これでいいのかな…一応ちょっといちゃつかせてみました。

基本的に私のアンナは女王様、その他は下僕共だから。蓮はお姉さまの愛情手料理(もしかしたら馬孫が作ってる?)を食べ慣れてるので美食王。

アンナ考案「髪に優しいデザート」はこの後ファウストによってドクターストップをかけられたとかかけられなかったとか。





感謝の言葉。

あっはっはっは(爆笑)
やったよ、母さん!(誰) 
わかめ…いや、むしろハゲネタ。
もうこれを読んだときはパソコンの前で腹抱えて爆笑。笑い死ぬー!!!
美食王が……っ 帝王(=蓮)が倒れた!!(笑)


しかし驚きです。左之助とふたりでネタ出し合ってたとき(むしろ左之助のひとり舞台)は、
夫婦がいちゃつくなんて話、まったく出てなかったんだけど!

嫁食っちゃってるよ、旦那!(笑)
肉よりワカメよりとにかく!!と、そういうことですね!!!(笑)
おやつよりはむしろメイン、と!
成長期だし、おいしいもんはめいっぱい食べなきゃね、旦那っ!!(←もうやめろって。)

いやーもう素敵な夫婦をありがとうございました!
予想だにしなかったラブッぷりですvv


しかしアンナさん自身が料理作るて、よっぽど不安だったんだろうなぁ……(笑)


余韻に浸りつつ、アホ漫画へ?