傷
「ん? アンナ…?」
腕の傷をなぞるあたしを不思議そうに見下ろし、葉は愛撫の手を止めた。
「…傷、増やしちゃって」
あたしは葉に新しくできた傷跡に触れながら、小さく呟いた。斜めに大きく、はっきりと、色が変わって傷跡独特の色になっている。
不快だということは、葉にも伝わったらしい。
「ん、ああ……。でもコレはオイラが無理したわけでは……」
「うるさい」
あたしは葉を睨みあげ、葉は困ったような表情をあたしに向けた。
いつもこうして抱き合っている時は、いつの間にか葉が主導権を握ってしまっていて、あたしの意識は薄らぎ熱を持っていく。そうして葉を抱き寄せ、愛しさのうちに混ざり合い、重なる。
けれど今夜は違った。あたしが葉に完全に溺れ、みだらに声をあげ求めてしまう前に、腕の傷が目に入り、霧がかかり始めていた意識がパッと晴れてしまった。
葉が腕をなくしたという事実が、あたしの意識に冷水をあびせる。熱を持ちかけていたあたしを、急激に冷ましてしまった。
「…こんな傷…許せないわ」
「…すまん」
あたしを抱けなくなったらどうするつもりだったの、なんて言ってやっても良かったけれど、茶化すようで嫌だった。
確かに、あの生意気な小娘だとかトンガリの姉さんに頼めば腕は回復する。使えるものは何でも使えばいい。回復できるならできた方がいいに決まっている。方途があるなら利用すべきなのも明白。…けれど、コレは、そういう問題ではない。
この腕がなくなってしまったら――
「アンナ…」
腕で自分の体重を支えながら、葉があたしの顔を見つめた。
少し低い声で…黒い、瞳で。
あたしを溶かすように、失ったはずの左手で肌に触れられた。――熱い。
血の通った、熱いてのひら。
生きていることを感じて…この腕が、作り物ではなく、確かに、合わさった肌から伝わってくる熱を持ったこの男の身体と繋がっていることを感じて、あたしは安心していた。
葉は腕の細胞ひとつひとつに、あたしを乱れさせたいとでも信号を送っているのだろうか。葉の手が、あたしの胸を包み込み、こねるように揉みはじめた。執拗に胸を攻められ、いたずらに突起をつままれて、あたしの身体は自然に葉を求めはじめる。
一度は冷えたあたしの意識が、再び熱を持って火照ってしまう。葉の指先がそっと肌を這い、下へ下へと目的を持って動き出す。それが分かるあたしは、期待と、けれどどこかに小さく残る羞恥とで、ごちゃごちゃになっていた。
熱を帯び、再び自分の意識が薄らいでいっているのを感じながら、腕の傷を見つめる。
――ああ、違う。
あたしはふいに、自分の間違いに気付いた。
腕が葉と繋がっているかどうかなんて、たいしたことではなくて。この腕があたしを求め動くのは当然で。
…あたしは単純に、この男を取られたくないのだわ。
誰にも。
――葉に傷を付けた男が許せない。
あたし以外の人間がつけた傷を、その身に残す葉の皮膚が気に入らない。
それだけのことだ。単に、自分との関連をその傷に見いだせないから、こんなにも不快なだけ。
この分だと腕を回復させた人間さえも、憎いのかも知れない。
うまく働かない頭で考えながら、葉の与える快感を感じ取る。傷のない方の――古い、傷しかない方の腕が、何もかも知りつくしているという風に、あたしの肌の上を滑る。熱いてのひらが、あたしの意識をどんどん溶かしていく。
あたしは新しい傷の付いた腕に、そっと手を伸ばした。
今度は、葉は気付かないふりをして、もう十分に観念して葉を受け入れようとしているあたしの身体を更に追いつめていく。片足を持ち上げられ、葉はもう片方の手であたしのそこに触れる。すでに粘着質な液を流すあたしを何度も何度もなぶり、愛おしそうに撫で上げる葉の瞳が見えた。
「ぁ…あ……っ」
震える息をこぼしながら、あたしの指先が、葉の腕の傷に触れようと力なく動く。その間も葉はあたしのそこに触れ、肉の割れ目を指でいじり、中に入れて突き刺すようにかき回す。
あたしの脳までかき回されたみたいに、何も考えられなくなってしまう。細い指が膣を出入りする感覚に、膣内だけでなく身体全体が震えた。
「よ……よ、うっ…」
あたしの指は、未だに葉の腕の傷を求め、さまよう。
ようやく指先が、彼の傷に触れた。
触れたと思った瞬間、何も言わずに葉があたしの中に唐突に押し入ってきた。思わず声をあげた拍子に、触れた傷に爪を立てる。
葉が小さくうめく。
あたしは爪を立てた。
肉に食い込ませたまま、互いに流れる熱い血を感じる。
痛みを感じ、涙を流し、それでも互いに引き抜こうとはせずに息を絡ませながら唇を重ねる。角度を変えつつ何度も口づけあい、繋がった性器は粘着質な音を奏でてあたし達を酔わせた。
葉は何度もあたしを突き上げ、あたしを高みに上らせる。動きに合わせるように息を吐き、声が漏れ、指は更に肌に食い込んだ。
血はやがて乾き、その下ではせっせと皮膚が再生していくことだろう。
憎らしいこの無法者も、あたしの手で秩序に組み込んだ。
葉の肌に残るのはあたしのつけた傷たち。――5年前付けた傷と、こうして抱き合いつけた傷と。
とぎれがちな意識の中、葉があたしの中に熱い白濁した液を注ぎ込むのを感じた。あたしの背は弓なりに反り、身体の中は震えて一気に脱力し、葉の傷から指が離れた。流れた血が肌を伝っていく。
傷つけられた痛みに泣き、傷つけた痛みに独占欲を満たして、あたしたちは抱き合った。
まだ抜こうとはしない葉は、繋がったまま荒い息を吐いて、あたしの頬や唇に力強く口づけてくる。熱い肌を重ね合わせながら、舌を絡ませキスをした。
もう知らない傷なんか作るな、と言うと、葉はただ困ったように汗ばんだ表情で笑った。
――これから戦おうとしているあんたには、傷を作るな、なんて無理な話かも知れない。
けれど、せめて、こうして抱き合えるように……。
あたしがあんたの皮膚に傷をつけられるように、戻ってきて。
まだ乾ききらない葉の血は、舐めると固い鉄の味がした。
懺悔。
シ、シリアス……か?
戻るとはいえ、知らないところで夫が腕なくして帰ってきたらやっぱりショックだったと思うのですよ。
それが書きたかっただけです。(笑)
あと嫁の独占欲。
(実際、葉とアンナがこんなことしてる時間があったのかどうかは不明。)
しかし旦那…嫁が孕んでるというのに堂々とイかせて中出しですか…。