夜はお静かに  前編



 「このひきょうもの!!」
 まん太に怒鳴られて、オイラは目を丸くした。仲間につけた霊たちを紹介したら突然この台詞だ。驚きもする。
「ひきょう?」
「そうだよっ! テストってのは自分の実力を測るもんだろ!」
 なのに他人(霊か?)の力で済ませちゃったらだめじゃないか、とまん太に怒られる。何で怒鳴られてるのか意味が分からなかった。オイラはプロのシャーマンになるんだから、シャーマンとしての力を使っただけだろ? そう思って言葉を続けていたら、とうとうまん太に「見損なった!!」とまで言われて、泣きながらどっかに走っていかれた。
 「あ! まん…」
太、という言葉が口ん中でむなしく響く。落ち着いて考えて、よくやく理由が分かった。阿弥陀丸がフォローしてくれるが、こればっかりは仕方ねぇかと思う。
 「――まん太は勉強でがんばってるから、許せなかったんだろう」
 たぶん、そういうことだ。
 まん太は勉強っつうもんに価値を見いだして、それと戦ってる。けどオイラにとっては勉強っつうもんはたいして価値がないから、なおざりになる。それだけのことだ。
 仕方ねぇ。
 オイラにとっちゃ、"勉強でいい点取る"ことよりも、"霊の持ってる力を引き出して"いい点取ることの方が大事なんよ。それがオイラの求めているもんだ。
 一人前のシャーマンにならんと、胸張って会えない奴がいるんよ。
 この身体にたくさんの鬼の傷を残しながら、それでもとことん優しくて、愛しい奴が。
 だから今は強くなって、一人前のシャーマンになりてぇ。
 まさかそんな恥ずかしいことまで、まん太に言う気にはなれんかった。言う気がないから、誤解されても仕方ないと思う。(あながち誤解とも言えんし)
 その日起こった未看板の事件で、オイラはあいつ以外の奴が作った傷を頬に受けた。久々に作った傷の所為で、あいつのことをやけに思い出す。
 ケガした時はいつもこうだ。ちゃんと元気に暮らしてるんだろうか。無理してねぇだろうか。そんなことばっかり浮かんでくる。
 そういえばその事件以来、オイラが霊の力を借りても、なぜかまん太は何も言ってこない。
 「傷だらけだね」
 そう言って情けないような顔して笑うから、「慣れてるからな」とだけ答えておいた。
 けど本当にこんなんで、オイラは強くなれてるんだろうか。一人前のシャーマンに近づいてるんだろうか。
 ――オイラがあいつを守れるようになるまで……いったい、どれくらいかかるんだろうか。
 まだまだダメだっていう思いばっかが先走って、うまくいかねぇ。
 このまんま東京で修行して、仲間集めて。そんで強くなれるのか分かんなくなってたとき、蓮って奴が現れた。まだ知らない力…そしてオイラは全然強くなんかねぇことを、思い知らされる。
 おまけにシャーマンキングって言葉も思い出した。
 オイラが修行してたのって、強くなってソレになって、そんであいつを守るためだったんじゃねーか。何で、いつの間に、強くなろう強くなろうと、そればっかり思うようになっちまってたんだろう。
 ――まだまだあいつに胸張って会えそうもねぇな…。
 そんなふうに思ってたら。
 あいつが、来た。
 よりにもよって、入院中なんかに。
 いきなり、姿を現したんだ。
 「アンナ…。お前よくここがわかったな」
「知り合い!?」
 横でまん太が驚いとるが、すまん、今のオイラはそっちに気がいかねぇ。
 いや、アンナの言葉すらまともに頭に入ってこねぇ。――何でだ、何でアンナがここにいるんだ?
 「ふんばりが丘の霊を呼べば、葉のことなんか全部わかっちゃうんだから」
 見覚えのある霊を従えて、アンナが言う。
「そうでしょ。久しぶりね、葉」
 言葉が出ん。突然現れた愛しい奴は、相も変わらず不敵に笑う。
 「前に会ったのは正月の、木乃の里帰りの時だったかしら?」
「……」
 忘れるはずがない。年の終わり、アンナを初めて抱いたあの夜。半年以上経った今だって、あの感覚は簡単に思い出せるぞ。
 あの時、布団の上に散らばっていたアンナの髪は、肩より下に伸びていた。あの時くらったビンタの威力は、今も衰えてねぇ。むしろパワーアップしとるんじゃないか? 触れると柔らかなその唇から出る言葉は、相変わらずキツイ。
 「えっ…ええ! じゃあ二人はシャーマンで幼なじみ…!?」
「そういうこと」
 そういうことって…もうそれだけの関係じゃねぇんだけどよ…。
 突然の登場に、オイラは汗をだらだらと流すことしかできんかった。――何で、今、こんな、みっともない時に。つうか、許嫁? いいなずけ?? アンナが、オイラの?
 許嫁…――!!
 その言葉をようやく理解して、ハッと我に返った時には、アンナはまん太に対して高々と言い放っていた。
 「未来のシャーマンキングの妻の命令は、絶対なのだもの」
 その言葉を口火に、まん太はジュースを買いに行かされていた。
 「……」
 オイラは今聞いた言葉を頭ん中で反芻する。「未来のシャーマンキングの妻」。――妻!
 「ァ、アンナ…?」
「……久しぶり」
「おお」
 アンナはオイラのベッドの横に立ち、オイラを見下ろした。強い瞳がオイラをうつす。横目でギロリと阿弥陀丸を睨むと、可哀相に、阿弥陀丸はどっかに飛んでいく。オイラは阿弥陀丸がいなくなったのを横目で確認してから、口を開いた。
 「アンナ…許嫁って……?」
 アンナの手を引いて、ベッドの上に座らせる。手をつないだまま向かい合う形でふたり、ベッドの上に座った。
 「あんたのじいさまから、正式に言われたから。あたしがあんたの許嫁よ」
「…そうか」
 オイラは押し黙る。
 「何よ。喜んでくれないわけ?」
「違う。嬉しいさ」
 アンナが許嫁になるなんて。望んではいたが、こんなに早く決まるとは思ってなかった。 ――まだ、オイラは弱ぇのに。
 「葉? あたし、ちょっとは強くなったつもり。でもあんたが喜んでくれないなら、また弱くなっちゃいそうよ?」
 脅しにも似た口調。不敵に笑ってみせるのは、オイラがアンナに惚れとるっつう自信があるからだろうか。それとも強くなったからなんか?
 アンナが突然、オイラの唇に自分のそれを押しつけてきた。久々の柔らかさに、めまいがしそうになる。じわりと熱が広がって、オイラはいつの間にか夢中で貪っていた。角度を変えて、深く、何度も。
 「ん……よぅ…」
 呼ばれて、ドキリとする。
 アンナをベッドに押し倒しそうになっていた自分に気付いて、パッと離れた。
 「葉…?」
「お、オイラ、トイレに行って来るから…」
「? そう?」
「おお」
 ベッドからそろりと降りて、サンダルを引っかける。
 「あんた…修行が嫌で逃げ出したりなんかしたら、承知しないからね」
「にっ、逃げねぇよ」
 修行が嫌なんじゃねぇ。(恐いが) アンナに、修行つけられるってのが何とも…――余計情けない気持ちにさせるって言うか。
 病室を出て、呟いた。
 「困ったことになったなぁ…」
 本当に。
 まさかこんなに早く許嫁が決まるなんて。アンナに、決まるなんて。
 嬉しさと、とまどいと、それから焦りがいっぺんに襲う。
 オイラはまだ、強くない。
 「困ったなぁ…」
 ぼりぼり頭を掻きながら、ひとり廊下を歩いた。
 それでも嬉しさはごまかせず、オイラは少しだけ、この膨れあがる気持ちをどこかで表したくなっていた。
 ――強くならんとな。
 この気持ちをかみしめた。こうなったら、アンナ自身の修行でも、甘んじて受けるしか仕方ねぇ。
 ……が。
 スペシャル修行コースとやらに、不安がないと言えば大嘘だった。
 少なくとも今の生活がすげぇ変わりそうだということにふと気付き……オイラは少し、笑んでいた。
 
 
 

 
 
 
 

 
懺悔


捏造もここまで来ると笑って頂けたら…いいな。(笑)

今の葉なら、霊の力使ってテストとか受けなさそう。
前からずっとそう思ってました。
で、たどり着いた結論。
この時はアンナのために「強くならなきゃ」ってそればっかりで、
恐らく勉強なんて二の次どころか十の次くらい。
とにかくアンナのために精一杯。(笑)
シャーマンとして成長する為に霊の力を使いまくった、と。

嫁の登場に素直に喜べず困ってたのは、自分が弱いことを思い知らされた後だったから。
と。


まぁ勝手な解釈☆(笑)



タイトルはポルノグラフィティより。
単純にアルバムの中で「ビタースイート」の次がこの曲だったために選んだタイトル。
その所為で、前編では全く関係のないタイトルに…(笑)