sweet, bitter sweet 3



 ふっと目が覚めて、オイラはしばらくの間ボンヤリとした視界に戸惑った。うす暗い中、それでもしばらくすると天井の木目が見えてきて、一回まばたきしてからはっと気付いた。
 ――オイラ、寝とったんか!
 え、どれくらい? つうか今何時なんよ!?
 起きあがって時計を見ようとして、腕にかかる重さに気付いてその動きを止めた。左腕を見ると、すやすやと眠るアンナが…。
 「あ…」
 そうか。
「アンナ…」
 布団から少しはみ出してしまっている肩は柔らかな素肌で、オイラがさんざん抱きしめ、唇を這わせたはずのそれだった。――あれは、夢じゃない。
 アンナの甘い声も、肌も、全部オイラにしみこんでいる。
 少しだけ浮き上がらせた身体のせいで、布団が持ち上がり冷たい空気が入り込む。オイラは慌てて、もう一度身体を沈めた。自分も潜り込み、布団をアンナの肩までかけてやる。冷えたら大変だ。
 そうすると、アンナがうっすらと目を開いた。
 「ん、起きたんか…?」
「……葉」
 アンナがオイラの方を見て、少し微笑む。
 「…っ!」
 可愛い……。我慢出来ずに、オイラは布団の中でアンナを抱きしめた。
 「ちょ…っと、なにすんのよ」
「いや……その…」
 正直に言ったら怒られるんだろうな。でも無性に言いたい気分だ。
 ビンタ覚悟で口にする。
 「アンナ、可愛い」
「……!」
 思いっきりひっぱたかれる。…ああ、いつもの感触だ。アンナらしい反応。――でも痛ぇ……。
 「おバカ」
「うい…」
 頬をさすりながら、涙でにじむ目でアンナの顔を見る。ぼんやりしていても分かるほど、アンナの顔は赤くなっていた。それが可愛い、っつうのに。
 でもアンナは少し顔をしかめ、また布団に身を沈めた。
 「…? アンナ?」
「なに」
 いや、なにっつうか……。いやもしかして――。
 「もしかして、いっ…痛かったんか? それともやっぱまだ嫌だった…――」
「嫌じゃないわよ、おバカ」
 あたしから誘ったのに、嫌なわけないじゃない、とアンナは言う。さ…誘ってくれとったんか、あれは。心の中で少し驚く。
 まぁ確かに人より恥ずかしがることの多いアンナがオイラに…その、胸とか触らせてくれたんだから、そうかもしれんとは思っとったが…。オイラに都合のいい解釈かと思ったんだが、そうでもないらしい。
 けどオイラの言葉すべてを否定しないアンナに、確信に似たものを覚える。
「痛かった…んか、すまん」
「……まぁ、否定はできないわね」
アンナがぼそりと呟く。
「あんた、突然動くし……2回も立てつづけにするし……」
「う…」
 すみません。夢中でした。
 「謝らないでよ? あたしもあんたを求めたの。あんたが抱いてくれて、嬉しかったんだから」
「アンナ…」
 じんわりと、心が温かくなる。アンナをこの手にした嬉しさっつうもんがこみ上げる。
 何よりアンナに受け入れてもらえたんだと思うと、胸のうちから沸き起こるどうしようもない衝動があるんよ。
 こういう嬉しさってのはどうやって表現できるんだろうな。
 とにかくじっとしていられないような気持ち。満たされた思いが心臓をやわらかく、それでいて力強く叩くんだ。
 …でもどこか一方で小さくポツンと、なのに無視できないほど黒く突き刺す不安もあった。
 「アンナ…よかったんか?」
「……」
 アンナがオイラの方をそろりと見た。
 「…なに、気持ちよかったとでも答えて欲しいの?」
「ち、違う、そおいう意味じゃねぇ!」
 オイラは首がすっぽ抜けるんじゃないかというほどに首をブンブンと横に振る。そんな恥ずかしいこと聞けんよ! そりゃ痛かったって言われるよかキモチよかったって答えてくれた方が嬉しいが……いや、違う違う!
 「そうじゃなくて…その……」
 イタコの、純潔とか。
 そう思って、言葉がつまる。
 さんざんアンナの中に出しちまった後で考える事じゃねぇんは分かっとるんだが…。抱いてるときはオイラも必死で、そんなことかすりもせんかった。
 「安心して。それなりに気持ちよかったから」
「そ…それはどうも」
 オイラは照れて口ごもる。あの可愛いあえぎ声が、また頭ん中に響く。
 いやしかし、そういう話ではないんだが…。
 ま…まぁ、いいか。ばあちゃんはじいちゃんとケッコンしてるんだし、たぶん大丈夫なんだよな…。
 「……!」
 ばあちゃんのことを考えたら、顔がサーッと青ざめてきた。
 オイラ、ばあちゃんにどう言ったらいいんよ? こんなこと言うべきなんか隠すべきなんかわかんねぇけど、とにかくばあちゃんに言うときが来たとしたら……!
 「アンナがかわいかったから、仕方なかったんだ」……ぶっ飛ばされそうだな。
 「アンナが誘ってくれて…」――い、いや……まぁ、背中を押してくれたんはあいつだが、こんなん連帯責任だな。そもそもオイラが無理やりにキスしたんだ。――むしろオイラが悪いじゃねぇか…。
 「真剣だったので、許してください」……やっちまったあとで許して下さいも何もないだろうとは思うんだが…。それでも、そう言うほかないような気もした。
 アンナの身体の中に、オイラが入り込んだという事実は消えない。引き返せない道。それでもオイラは突き進んだ。
 ――たぶん、もう一度時を戻す便利な道具があったって、オイラはまたアンナを抱くんだろうな。気持ちいいってのも当然あるんだが…こんなにアンナをそばに感じられる行為を、手放せない。
 「ありがとな、アンナ」
「…ま、その言葉なら許すわ」
 アンナはまた少し微笑む。可愛くて、その笑んだ口元に唇を落とす。離れて、また深くキスをしながら、抱きしめ合った。柔らかく暖かな肌が気持ちいい。
 息をついて、そっと離れた。 
 「――なぁ、アンナ。お前いつまでこっちにいられるんだ?」
 オイラはそんなことすら聞くこともなく、言葉を交わしていなかったことに今更気付いた。突拍子もないと思ったアンナの勘違いも、ある意味仕方なかったのかもしれん。
「…正月の三が日が過ぎたら、向こうに帰るわ」
「……そうか」
 あと五日。
 それが過ぎたら、オイラはまたこいつを手放さなきゃならんのか。ぎゅっと抱き締めたら、アンナが苦しそうに息を吐く。
「…春休みには会えるわ」
「…」
「ねぇ、あたしたち、次に会った時にはまたこういうことするのかしら?」
 素肌の触れ合う感触。絡みあう足。アンナと繋がる快感。
 …オイラは、したい。またアンナを感じたいんよ。アンナさえ、受け入れてくれるなら。でも…――。
「オイラ、今度の春休みには出雲にいんかもしれん」
「え?」
「じいちゃんが東京で修行しろってさ…。火事とか焔とか、確かそんな名前の元旅館」
 独り暮らしだ、と言うと、アンナがオイラの顔をしげしげと見た。
「あんた…自炊できたっけ?」
「いや…まぁその辺はなんとかなるだろ」
「……あんたらしいけど」
「……そっか?」
 ――沈黙が流れる。
 鼓動が、やけに大きく聞こえた。
 次に口にしようとする言葉を思うと、喉がからからに渇いて、血が逆流しそうになる。出る声はたぶん掠れるだろうと、自分自身で気づいていた。
 「アンナと一緒に、暮らせんかな…」
 やっとの思いで口にする。それは単純な、でもとても大きな願いだった。
 アンナと一緒に。よく分からないけど、たぶん大きいだろうそのナントカっつー元旅館に。
 二人で暮らすってのは、とても魅力的に思えた。頻繁には会えないオイラたちだから。ずっと一緒にいるわけじゃないから。家に帰ればアンナがいる。そんな想像はすごく、すごく魅力的だったんだ。
 「――あたしは、家事なんかしないわよ」
「そういう話じゃなくてよ…」
 分かってねぇんかな。オイラは軽く息を吐き出す。――オイラは、アンナと一緒にいたいって言ったんだぞ?
「…分かってる。でもあたしは行かないわ」
「……そうか」
 オイラの理想が、本人の口からぶっ壊された場合にはどうすりゃいいんだ。今のオイラは苦いものを噛んだような顔になっているに違いない。まぁ料理の腕もたいしたことないだろうオイラの飯を食うよりはばあちゃんのとこにいた方がいいかもしれんけどな、とごまかすように早口で言った。
 「――そういう話じゃなくて」
 アンナが身体を起こし、オイラを見た。小さな胸がちらりと布団の隙間から覗いて、ドキリとする。オイラはまた変な気を起こしそうになってるのを感じて、ゴクリとつばを飲み込んだ。
 オイラの視線に気づいたのか、アンナははっと自分の胸元を見て、素早く身体を布団に押しつけた。――隠さんでも、いいじゃねぇか…。
「あたし、木乃のもとで修行して、そして強くなってからあんたの元へ行くの。だから行かない。それだけ」
 アンナは話を終えたいとばかりに、さらりと早口で言い、そっぽを向いた。
 「――ああ、分かった」
 そんなアンナの言葉と、行動に、思わず笑みが浮かぶ。
 嬉しかった。アンナは強くなろうとしてる。オイラも負けらんねぇ。強くなりたい。アンナを守れる様に。でもアンナは黙って守られてる様な女じゃねぇからな…。
 しばらく、アンナの白い背中を見つめた。オイラの腕に収まるほどの、強く抱くと折れてしまいそうだと思ったほどの、小さな細い身体のはずなのに、やけに大きく見えた気がした。
 ――何もかもひっくるめて何とかできる様な、一人前のシャーマンに…なりてぇ。強く…――。
 「ねぇ」
「ん?」
 アンナが、ゆっくりと振り返った。オイラの目をじっと見る。今更ながらに妙に照れた。
「いつか…いつか、あんたの元に行く時が来たら…」
「…?」
「その時には、あたしをあんたのお嫁さんにしてね?」
「…っ」
 小さく呟かれて、オイラはめまいがしそうになった。――だめだ…可愛すぎる。
 今すぐにお嫁さんになってくれよ。そう言ってその身体を引き寄せたら、「強くなってからよ」とあしらわれてしまった。なんとまぁ苦く甘い言葉だろうと、オイラはその未来の嫁を強く抱き締める。その言葉も恥ずかしさを紛らわすためだと気付いているから、余計に愛しさがこみ上げた。
 まだ許嫁じゃない。許嫁に決まるかも分からない。でもきっと、オイラの嫁さんだ。誰が許嫁になったって――そりゃアンナがなってくれるっつーのがいちばんの希望なんだが…――例え、誰か他の奴がそんなのになったとしたって。オイラはきっと、アンナを求める。
 でもそんなのが決まるまでに、もっと、もっと強くなりてぇと思った。心も、体も、強く。アンナとまた会ったときには、胸張って顔合わせられる様に。
 何も言わないオイラの顔をアンナが不思議そうにのぞき込む。その唇を覆って、離れて、また重ねて。ふたりで微笑んだ。
 次に会えたときには、その時には……。
 また、こうして抱き合おう。
 「東京と青森つうと、ちょっとだけ距離が近づいたな」
「何言ってんの。あんたに触れられないなら地図上の距離が縮んだって意味がないわ」
 …確かに。
 手厳しい言葉に頭を掻きつつ、オイラは少し思った。――こいつを守ろうってんだから、オイラのその願いはそうとう苦労せんと叶わんのだろうな。












懺悔


す…すみません!!
「お嫁さん」はやりすぎだと自分でも思ってます…!
でも言わせたかったんだ……っ!!(笑)

分かって頂けたかわかりませんが、
これは第10廻でのアンナの台詞、
「前に会ったのは正月の木乃の里帰りの時だったかしら?」
が元です。(笑) 
正月の里帰り(実際は年末で、間違ってすが)、その時にふたりはやった、と……(コラ)
ここまで捏造してよいものやら。(汗)

しかも不消化気味で申し訳ありません。
一応「sweet, bitter sweet」としてはこれで終わりですが…
ちょっと納得出来なかったんで…おそらく名を変え続きます。(え)





謝意

最後になりましたが…
これは1000HITキリリクをして下さっためぐみ様に捧げますv
無駄に長く、しかも微妙な出来具合になって申し訳ありません。(汗)

結構な難産でしたが(笑)、楽しかったですv
リクエストありがとうございましたvv
これからもよろしくお願いします。