夏休み 2 



 バスを降りて、15分ほど歩いて、ようやくたどり着いた旅館は…うーんと……。
 「ボロい」
 アンナの言葉が、その場を凍らせた。
 「ア、 アンナ…そうバッサリ言うと旅館の人たちがかわいそうだろう……」
「ボロいものをボロいと言って何が悪いのよ」
「うう〜ん、そう言われると返事のしようも……」
 「とりあえず、チェックインしとこうぜ」
 ホロホロがそう言うが、チェックインという響きがこれほど似合わない旅館もない様な気がする。
 「あー、すんません、予約してた道ですけどー」
「貴様、なぜオレの名なのだ!」
「かてぇこと言うなよ」
 あいつら、受付の前でもケンカを始めやがったぞ。
 見かねたピリカが止めに入り、たまおが代わりに受付に立った。
 「えーと…タオさん?」
 だいぶ年取ってそうな、なんとなく青森のばあちゃんを思い出させるばあちゃんが、ぺらぺらと紙をめくる。予約表だな。
 「あーハイハイ、道さん。大部屋ひとつでいいんですかね」
 「え……?」
 その声に、ホロホロと蓮のケンカの手も止まった。
 「いやっ、大部屋ふたつのハズだぜ、ばあさんっ!」
 ピリカを押しのけ、ホロホロがばあちゃんにくってかかる。
 「いやいや、ひとつって書いてあるよ」
「ふたつって言ったっつーの!」
「そんなこと言われても、大部屋なんてもう空いてないしねぇ」
 おいおい、なんかいい加減な旅館だなぁ。
 オイラは肩に掛かる荷物の負荷に耐えかねて、鞄をどさりとおろした。話が長くなりそうだ。
 横に立つアンナが眉間にしわを寄せて受付でのやりとりを見ている。――ああ、機嫌の悪い顔だ。
 オイラはバスの中でのアンナの台詞を思い出した。
 「“取るに足りない旅館”……か?」
 オイラがおそるおそる尋ねる。
「いいえ。むしろ反面教師だわ」
「ああ……」
 ナルホド。ただでは転ばんところがアンナらしいと言うか。
 「大部屋ひとつじゃ困るんだよ、ばあさんっ」
「小部屋ならあと2つはあるけどね」
 受付ではばあちゃんとホロホロのかけひきが行われている。
 「……」
 ホロホロは頭ん中で人数を割り振っているらしい。指を折ってなにやら数を数えている。
 「小部屋にピリカたちが散れば部屋数は足りるが……」
 言いながら、ホロホロはためらっている。
 多分ホロホロはでかい部屋で雑魚寝っつーのが希望なんだろう。その方が大人数で遊びに来た甲斐がある。男子、女子の二部屋に分けたかったに違いない。けど…――。
 「いいじゃねぇかホロホロ。寝る直前で適当に3部屋に別れりゃ十分だろ」
「葉…」
「それまで一緒の部屋で何かすりゃいいさ」
「……まぁ、それもそうか」
 渋々だがホロホロも了解し、オイラたちの手には鍵が3つ握られることになった。
 小部屋は丁度、大部屋の斜め向かい側。
 一番でかい部屋にオイラたち男子が荷物をどかどかと置き、小部屋ふたつにはアンナたちが適当に鞄を置いていた。
 あとは着替えて海に…――。
 実はオイラ、アンナの水着姿は密かに楽しみにしてたんよな。考えるとついつい顔がゆるんじまう。
 アンナの裸ならほとんど毎晩見てるし、もう見慣れちまってるんだが。(かと言って見飽きることも全くないんだが。)
 水着っつーとこれまた新鮮な感じがしていいんよなー。
 「おいコラ葉、お前ぇ顔が笑ってんぞ」
「うえ?」
 オイラ、ホロホロに気付かれるくらいにやけてたんか?
 「クックッ…どうせ嫁のことでも考えていたんだろう」
「うえっ」
 蓮まで!
 「葉くん……君なに考えてたのさ……」
 ああっ、まん太、退かないでくれ!
 みんなに冷たい目で見られている中(いやこれはからかわれてるのか?)、部屋の扉がノックされた。
「どうぞー」
 まん太が扉に向かって声をかける。もうみんな着替えちまった後だから誰が入ってきても困ることはないしな。
 「葉、いる?」
 部屋にひょっこりと姿を現したのはアンナだった。――水着姿の、アンナ。
「お……おお」
 返事もマトモに出来んくらいに、オイラはその姿に見とれてしまった。淡い水色の、セパレートの水着。
 水着姿は身体のラインが妙に浮き出とって、オイラは落ち着かない気分でゴクリと生唾を飲み込んだ。
 だって…その……オイラが毎晩頑張っとるせいかは知らんが、アンナの胸は以前に比べたらだいぶ大きくなっとるし……。
 「ど…どうしたんよ」
 オイラはなるべく平静を装う。ああ、昨日たっぷりとアンナを抱いたのに、どうしてこう欲がつきることはないんよ……。
「あたしのタオル、あんたの鞄にまとめて入れちゃったみたいなのよ。出して?」
 うっ……。
 ――アンナ、あんまオイラに甘えたような声で、「出して?」とか言わんといてくれ…。
 「た、タオルな」
 オイラは昼間っから浮かぶ妄想を振り払い、鞄を引き寄せた。タオルタオルタオル……。頭ん中で何十回と繰り返す。
「ああ、これだ」
 オイラはタオルを取り出して、アンナに手渡した。
 「ありがと。――もういっちゃうの?」
「いっ…! いくって……」
「海よ。もう泳ぐ準備は出来たんでしょ?」
「う、海な」
 ああ、ダメだ、オイラ過剰反応しすぎだ。
 まだ昼だし、ホロホロたちもいるんだ、変に思われちまう。オイラは頭を振って、アンナを抱く甘美な幻想を払いのけようと努力した。
「どうしたのよ。あんた変よ?」
 アンナがオイラを気遣ってくれるが……。
 あんま近づかんでくれ! オイラはアンナの柔らかい肌が触れるたんびに天国と地獄を同時に味わう気分なんよ!!
 「オ、オイラなら大丈夫だ」
 アンナからなるべく離れようと、オイラは逃げ腰になって言った。
 「オイラ…っ先に海行っとくからな! な、まん太!」
「え、僕?」
「おおっ、じゃなっ」
 オイラはまん太の手を取って、逃げるように部屋から飛び出した。
 うしろでホロホロと蓮の笑い声が聞こえたのは……きっと、オイラの気のせいじゃない。












懺悔。


どれだけ懺悔してもし足りない気がするので、もういっそ開き直ろうかと思います。


今週のジャンプ(マンキン238廻)見たら思うんですよね。
「葉さん純粋だけど、やることはやってんだなぁ……。」

まぁそういうわけで今回のような葉さんが出来上がったのです。
(何故?)