夏休み 6



 あたしは葉に乱暴に抱かれた後、力尽きて畳にぐったりと横たわっていた。
 何なのか分からないまま腕を掴まれ旅館の部屋に連れてこられて、何も敷かないかたい畳の上で、ほとんど無理やりに抱かれた。何だか必死な様子の葉に、あたしは溺れて声をあげることしかできなかった…。
 今日は絶対に抱かれたくなくて抵抗したのに……結局許してしまう。
 あたしは腕に付けられた葉の赤いしるしを横目に見て、ため息をついた。この様子じゃ、きっと体中あちこちキスマークだらけね。
 「これじゃ、明日は水着が着られないじゃない…」
 思わずひとりごちる。旅行に行くことが決まってからは絶対に付けるなとかたく言っておいたから、葉も一応気を付けていたけど、さっきの葉はそんな余裕なんてなさそうだったんだもの。明日も水着が着たかったから、絶対に嫌だったのに。
 ごろりと寝返りを打つと、葉に脱がされ散らかったままの水着に目がとまった。――そうだわ、着たかった水着も、あたしの中から出たものに濡れたせいで、卑猥な光を放っている。
 全部葉の所為よ、と言ってやりたかったけれど、きっと葉はあたしが赤面しそうになる言葉を使って否定するでしょうから、もう何も言わない。これ以上弄ばれてたまるもんですか。
 「アンナ……」
 突然、うしろから葉に抱きしめられた。
 「あんた…寝てたんじゃないの?」
 あたしは飛び上がりそうな心臓と、思わず出そうになった驚きの声を抑え込んで、冷静な声を出そうと必死に努力した。
 「ん……いや、起きてた」
「そ。じゃああたしの不満も聞いてくれてたかしら?」
 あたしの胸をめがけてそろそろと動く葉の手を、ギュッとつねってやる。
 「いてっ。ん、ああ、まぁな…」
 葉はあたしがつねった方の手を離し、その手でぽりぽりと頭を掻いた。
 「アト付けて欲しくなかったんなら、最初からそう言えば良かったじゃねぇか」
 葉は拗ねたような顔で言った。
 「オイラ、アンナがメチャメチャ抵抗するから焦っちまったんよ?」
「何言ってんのよ!」
 あたしは腹が立って、ぐるりと振り返って葉の頬をつねってやった。
 「あんたが何にも言わずにあたしを無理やり抱いてきたんでしょう!? 有無を言わさず!」
「いひぇえ」
「あんたこそ、ヤキモチやいてんじゃないわよ、もうっ」
 あたしをこんなに抱いて、めちゃくちゃになるまで支配するくせに、たかだか胸元が見えかけたくらいでヤキモチなんかやくなんて。
 「信じられないわ」
 そう言うと同時に、パッと手を離した。
 「う……すまん」
 頬を押さえ、葉は申し訳なさそうな顔をする。そんな顔するくらいなら、最初から無理やりになんかしなきゃいいのよ。本当にバカなんだから。
 「でもオイラ、どうしても許せんかったんよ……。アンナが他のやつらに好奇の目で見られるなんて」
「……」
「そう思ったらカーッと頭に血ぃ上っちまって……抑えられんかった。…すまん」
 ……この顔を見たら何も言えなくなっちゃう、あたしもあたしだわ。
 「もう過ぎたことはいいわよ」
 あたしはふぅと息を吐いた。結局最後には、あたしだって……抵抗しきれなかったのだし。
 「明日はパーカーでも羽織って…そうね、貝拾いでもしてこようかしら」
「ん、じゃぁオイラもつき合うな」
「何言ってんの。あんたは泳いでくればいいじゃない」
「いや……」
 葉はユルく笑った。
「オイラ、アンナを一人にしたらまたどっかおかしくなって、アンナをどうにかしちまいそうなんよ」
「……っ!」
 そんなこと、ユルく笑って言うことじゃないわよっ!
 「勝手になさい…っ」
「おお」
 葉は嬉しそうに笑った。
 貝拾い……適当に言ってみただけだけど、あんたと一緒なら悪くないかもね。
 でも…――。
 「あたしが明日水着着てないの、あいつら変に思うでしょうね」
 特にたまおは、あたしがこの水着を気に入ってたの知っているから……。
 「ああ、それならまん太が何とか言ってくれてるだろ」
「? 何でまん太なの?」
 突然の名前に驚く。
 「ん……ああ」
 葉は言いにくそうに、あたしから目をそらした。何なの?
 「どうもオイラ…アンナをこの部屋に連れてくんのに精一杯だったみたいでな。部屋ん鍵、閉めてなかったみたいなんよ……」
 あたしはその言葉にサッと青ざめる。まさか…――。
 「で、アンナ抱いてるときにまん太が部屋に来ちまって……。ああ、アンナはオイラに夢中で全然気付いとらんかったけどな」
 ウェッヘッヘ……なんて、よく笑ってられるわね! あたしの顔がみるみる怒りで赤く染まっていくのを見て、葉が青ざめ、言い訳がましく続けた。
 「あ、大丈夫だ、アンナの裸は角度的に見えんかったと思う! あいつも慌てて出ていったし!! 鍵だって後でまん太が閉めといて…――」
「うるさいっ!!」
 パ――――――――――――ンッ!!!
 旅館に、あたしのビンタの音がこだました。
 こんな馬鹿な旦那……っ!! 本当に…本当に信じられない! 怒りでめまいがしそうよ…ッ!
 「あんた、今後一週間夜のおやつ抜き!!」
「うええっ」
 この世の終わりのような顔をする旦那を放って、あたしは備え付けの浴衣を引き出しから出して、そのまま素肌に着込んだ。
 「あたし、これから温泉につかってくるから」
 鞄をあさって、今朝葉から受け取ったもう一枚のタオルと、汚れていない下着を取り出す。
 「絶対、覗くんじゃないわよ!」
 あたしは打ちひしがれた様子の葉にそう言葉を投げかけ、部屋を出た。
 「それからあんた、自分の部屋に戻りなさい!」
「……ぅぃ」


 扉を閉める前に、葉の力ない呟きがあたしの耳に届いた。
 「いくらオイラでも…女風呂覗く勇気はないぞ……?」














懺悔。


何かもう懺悔書く事自体つらいんですが。

バッカな旦那が書きたかったのかと。(笑)
すまんまん太、すまんアンナ。
一番の被害者がまん太である事に間違いはないと思います。

5を読まなくても分かるようにしたつもりですが…やっぱり無理だったかも。
突然、アンナが葉に襲われた後になってるし。(笑)

つうか、いつの間にか「夏の行事を扱う企画」から「夏の情事を扱う企画」に変貌を遂げた…。

ごめんなさい。(平謝り)

次からもう普通に行事に移りたいと思います……。