夏休み 7


 夕食前。
 僕は部屋を出て、おそるおそる廊下を歩く。
 故意ではないとはいえ、親友の…その…アンナさんとの、そういうシーンを覗いてしまった形になったので、僕はひたすら気まずいんだ。
 もうあれから1時間以上経つ。
 たぶん…葉くんでも、もう、いい、ハズ。(何がって言われても困るんだけど。)
 もともと僕の小ささではそんなに大きな足音がたたないんだけど、いっそう注意して歩いてみる。
 ギシ、ギシ。
 それでも、このボロい旅館では床が鳴ってしまうんだなぁ…。
 アンナさんたちの部屋の前に立って、僕は扉を見上げた。
 音は、しない。
 いいん……だよね、たぶん?(不安だ…)
 「よ…」
うくん、と呼びかけたときに、扉が突然開いた。
 「うわぁっ」
「うえっ、まん太!」
 浴衣を着込んだ親友が、ひょっこり顔を出した。僕は、そんな親友のさっきの光景を思い出して、思わず顔が赤くなる。ふ、振り払わなくちゃ…。えーと……。
 「葉くん、もうすぐ夕食みたいだから、呼びに来たんだ」
「おお、そうか」
 自然だ、うん。自然な流れだ。
 「アンナさんは?」
 部屋の中にあられもない姿のアンナさんがいたらどうしようかと思って、僕には部屋の中を覗く勇気はない。
 「ああ、あいつなら風呂に行った」
「そ、そう」
 よかった…。僕はホッと胸をなで下ろす。
 「あー、さっきはすまんかったな、鍵…――」
 そっ、その話を持ち出すのか、君は!!
 「い、いいよ、他の人が来ても困っただろうし…」
 ――見ちゃった人が、ね…。
 「うん…あと、今日は色々心配かけてすまんかった」
 葉くんがまじめな顔をして言う。僕は昼間、浜辺で落ち込んでいた葉くんの姿を思い出した。
 「情けねぇけど、オイラ結局、アンナ抱くの止められんかった」
 情けないと言う割に、葉くんの顔は晴れ晴れとしている。
 「でも何か…吹っ切れたみたいな顔してるよ?」
 僕はその理由が知りたくて、思わず口に出していた。
 「うん…まぁ昼間まん太が言ってくれたみたいに、それだけオイラがアンナに惚れてるってことだしな」
 葉くんは少し顔を赤くして、ポリポリと頭を掻いた。照れられても、こっちが照れるんだよ…。
 「独り占めしたいって思うんも、男としてある程度は仕方ねぇんかな…と、思うことにした」
「ふーん…」
 男として、ねぇ……。まぁ君とアンナさんの間のことは、僕にはどうこう言えないけどね。所詮ふたりの間のことだもの。
 僕がそんな風に思ってたら、葉くんから意外な言葉が飛び出した。
 「まん太のおかげで、オイラ吹っ切れた」
「え?」
「好きなんだし、可愛いとか抱きたいとか思っちまうんも、当然なんよな」
 まぁそれだけで何もかもの言い訳になるとは思ってねぇけどよ、と葉くんは笑う。
 「自分の気持ち隠しちまうより、ちゃんと向き合った方が楽だしな」
「うん…」
 うん、そうだね。
 知らないところで、自分の言葉が人に影響を与えてるんだな、と思った。
 たぶん葉くんの中には、いろんな思いがあって、たぶんアンナさんに対するものも、綺麗なものだけじゃなくて。でもそれでも、ちゃんと自分のものだと、認めた方がいいんだ、きっと。
 ……けど。
 けど、吹っ切れた葉くんは、何だか恐ろしい気がした。今までで抑えてた方だって言うんなら……いったいアンナさんはこれからどういう扱いを受けるんだろう。しかも葉くんが吹っ切れたのが僕のおかげだとしたら……。
 ごめん、アンナさん。僕に悪気はなかったんだよ……。
 僕はアンナさんに謝りたい気持ちでいっぱいになった。
 「ん? どうした、まん太。顔青いぞ」
「君の所為だよ!」
「ん? オイラ何かしたか?」
 いいよ、別に。僕の気持ちを汲み取ってくれとは言わないさ…。
 「しかし夕食どんなだろうなぁ。あんま期待出来んだろうなぁ、こういうトコじゃ」
 ウェッヘッヘ、と葉くんは笑う。
 君は食前においしいものを食べたんだろ、という皮肉は、さすがに僕の口からは言えなかった。
 「あ、葉さま、まん太さん」
 となりの部屋からたまおちゃんが顔を出した。話し声が聞こえていたのか、ある程度予想していた顔だ。
 「あの、そろそろ夕食のお部屋へ移動してくれって、お電話が……」
「おお、すまんな、たまお」
「いえ」
 たまおちゃんがふわりと微笑む。
 僕は少しどきりとした。
 「あの、アンナ様は?」
「ああ、今風呂行っとるんよ」
「あ、じゃあ私、お伝えしてきます」
「すまん」
 たまおちゃんはまた微笑んで、お風呂場の方へパタパタと向かっていった。
 “独り占めしたいって思うんも、男としてある程度は仕方ねぇんかな……”
 僕はさっきの葉くんの言葉をふと思い出してしまった。
 まぁ、確かに……ね。
 あの笑顔が、僕だけに向けられたらいいな、とかは、思っちゃうんだけど、ね。
 僕は小さくため息をついて、何も考えてなさそうな親友の顔を見上げた。


 本当に、本人の知らないところで、言葉が人に影響を与えることがあるみたいだ。















懺悔。


だんだん夏休みからかけ離れてきてどうしようかと思っとるんですが。
前回のフォローが必要かと思ったらこんなものに……。
次は、次こそは夏の行事です!(前回も言った気がする……)

最後、ちびっとだけまんたまでごめんなさい。なんとなく好きなんです。
ふつう中学生ってこんな感じなんじゃないかなぁ…と思うんですが、どうなんでしょう?
葉とアンナがエロエロしすぎてて忘れがちですが。(笑)


ほのかな恋心、これも夏の風物詩ですよね。(そうか?)