「君はアンナさんのこと好きなの?」
 まん太にそう聞かれたとき、不意にもう一人の小さな友人を思い出した。
 アンナの姿はもちろん脳裏にちらついた。しかしそれと同時にあの持霊のことを思い出すなんて、いったいどういうことだろう。
 葉はその疑問に行き着く手前で本来の質問項目に意識が集中し、頭の中が白くなった。
 ――アンナのことが…
 「す…って、ぇ、何の話だ」
「何うろたえてんのさ」
 まん太は呆れたように、しかしどこか面白そうに今更じゃないか、と言う。何が今更なのか葉には分からない。正直に言えば、ここ最近考えることを真っ向から質問された状況なのだ。今更もくそもない、まさしく今、なのだ。
 しかしまん太にしてみれば当然の疑問だった。葉が大きなけがを負って入院した際に突如許嫁として現れた彼女。親同士が決めた、とは聞くがそこにあるべき本人の好意、はたまた悪意は彼の様子からはいまひとつ分からない。
――いや少なくともまん太の見るところ、嫌いではなさそうである。
 彼女が来てから1ヶ月。夏休み中に連絡の取れなかった彼は、久しぶりに顔を合わせてみればその嫁による地獄の修行の片鱗かと思われる傷だらけ。彼女に対する文句を連ねる友人に聞いてみたくなるのも当然と言うものだろう。
 ユルい葉のことだ、軽く受け流されるだろうと予測しながら聞いてみたのだが、案外面白い展開になりそうだ。普段のらりくらりと生きている(様にまん太には見える)彼が、ひとりの少女のことで――しかも地獄の特訓だとか、恐怖のビンタとかそういった類のことではなく動揺する様を、見逃してやる手はない。まん太は嫌な笑いを浮かべて葉に言いつのった。
 「ねぇ、どうなのさ?」
「何だよ、変な笑い方すんなよな」
 先ほどの動揺はどこへやら、葉はユルい反応を返しながら紙パックの牛乳を飲んでいる。立て直しの早さに舌を巻きつつ、ここで退いては面白くない。
 「嫌いなの?」
 そう聞いてみると、葉がゆっくりとストローから口を離し、
「んなことはねぇよ」
と、案外はっきりとした物言いをする。それだけは自信が持てる、という様な言い方だった。
「嫌いじゃねぇ」
「じゃぁ好きなの?」
「…」
 葉は黙ってまん太を見た。こういった話題に変に高揚しているまん太とは違い、葉は思いの外冷静な目だった。
 「嫌いじゃない、イコール好きってわけにはいかねぇだろ」
「そりゃまぁそうだね…」
 それはわかるが、何故葉が沈まなければならないのか。疑問を口にする前に、葉が先に口を開いた。
 「どうでもいい、中間って位置も存在するしな…」
「…そりゃぁね」