「久しぶりだね、葉」
「げっ、ばあちゃん…!」
この広い屋敷の一室に小さな祖母の姿を見つけて反射的に口から飛び出した言葉をきっかけに、杖がその先端を向けて容赦なくまっすぐに飛んできた。
ビィィンと床に突き刺さった杖が振動し音を発する。危うく直撃するところスレスレで片足を上げて避けた葉は、盲目のはずの祖母の狙いの正確さに舌を巻いた。
「この正直者のたわけが」
「すみません、許して下さい」
 舌が動くに任せてとりあえず真っ先に許しを請うておく。ばあちゃんに逆らっちゃ命がいくつあっても足りない。
 「まったく、一言多いのは誰に似たんだかね」
 視線を感じるのを気のせいに処すために、横にいた葉明は敢えて新聞から顔を上げずにいた。
 祖父母がこうして揃うのを眺めるのも久々だった。木乃は正月や盆くらい、それかまれに――ごく、まれに、気が向いたときにやって来る。それも事前に知らせがないから、葉はたびたびこうして驚かされてしまうことが多いのだった。
 「どうしたんよ、ばあちゃん」
「なんだ、いちゃ悪いかい」
 皮肉っぽく言い放つ祖母の相変わらずの口調に苦笑する。木乃の話し方というか、言い回しは、ひとりの少女を彷彿とさせる。彼女が木乃に拾われ育てられ、また最近では修行をはじめ行動を共にしているらしいというのだから、それも当然なのかもしれない。
「いや、悪いわけじゃねぇけどさ、もちろん」
頭を掻き、どう言葉を継げようか思案していると、
「素直にアンナはどこかと尋ねれば良いだろうに」
と、いつもの皮肉っぽい調子に少し笑いを含んだ言い方をされて、葉は赤い顔を見られないように(どのみち木乃には見えないのだが)わずかに俯いた。そこまで自分の考えていることは分かりやすいのだろうか? アンナの名前なんて、ひとつだって出していないのに。
木乃がいれば、彼女が拾い育てた少女がくっついてくることを期待せずにはいられない。
おっかなくて、意地っ張りで、でもそれが可愛いなどと思わせてしまう、自分にとってとても魅力的な少女が。それがたまにしか会えない相手となると、尚更気に掛かってしまうのだった。