「葉ッ!」
「うえっ」
 襖をガラリと開ければ、寝ころんでレコードを聴いていた葉とすぐさま目があった。
 「おい、普通お前、声かけとかあるだろ…」
「うるさい」
 ピシャリと黙らせると、アンナは部屋へと許可を取ることもなく足を踏み入れ、定番のヘッドフォンをむりやり耳からもぎ取って、葉と向き合った。
 「何だ…」
「たまおに聞いたわ」
「…何を」
「学校のこと」
「…」
 葉は少し驚いた顔をした後に、頭を掻きながら座り直す。
 「誰とも話さなくなったって」
「まぁうん…そうだな」
 アンナと視線を逸らしながら、葉は呟いた。
 しばらく無言が続いたが、葉は観念したようにへらっとわらった。
「オイラのことわらってもいいぞ。それくらいでこんだけ落ち込んでんだ。バカだよなぁ」
定番の、でもいつもより数段乾いたわらいをこぼしながら葉が言えば、今日何度目かになるビンタが飛んできた。
パシーン、と小気味いい音が部屋に響く。
葉は痛みを頬にまともに受け、顔をしかめながらも涙を落とさず、避けようと言う素振り一つ見せなかった。
「…そんなことどうだっていいのよ」
アンナは小さく呟く。
「そんなこと、どうだっていいの」
「…?」
「あたしが情けないのは、あんたがあたしに何も言おうとしない事」
「それは…」
「何も聞かずにおいてあげる優しい許嫁が欲しいなら、あたしは必要ないって事だわ。麻倉にとっても、あんたにとっても」
 アンナは怒った表情で言い放った。しかしそれはどこか自分に向かって言っているような、そんな気もした。家が選んだ嫁候補という立場をどこかで気にしているせいか、先に麻倉の名が出てしまう。それは葉の笑顔がどれだけ自分に向けられても、唐突にやってくるアンナの泣き所だった。
「お前…お前、は、オイラがともだちいねぇの、気にせんのか?」
「別に…」
まったく気にならない、と言えば嘘になると思う。しかし…――。
「あたし…は、あんたがこの世に何の価値も見いださないことの方が恐いと思うから」
アンナは自分を見つめてくる葉の視線から少し逃れたく思いながら、それでもじっと見つめ返して、言葉を紡いだ。
「かつてのあたしのように、この世をウラんで、ウラんで、恨み続けることでしか生きられないんじゃなくて、ラクになりたいって、そう思うあんたの考え方は好きだから」
言葉にすれば、思うよりも何よりも確かになっていくような気がした。