ねこ ねこ こねこ


 授業中。どっから紛れ込んできたんだか知らんが、突然ひざの上にネコが乗ってきた。
 そりゃもちろん、オイラだってこっち来いって手ぇ差し出したんだけどさ。まさか本当に来るとは思っとらんかった。
 寒かったんだろう。
 手を伸ばせばいそいそとやってきて、オイラのひざにひらりと飛び乗り、かたく、小さく、丸くなった。
 黒いネコ。小さな、黒いネコ。
 ひざに飛び乗り、既に我が物顔で眠りこけてるこいつは、なんというか…ボウジャクブジン、だけど。
 身体が冷たくなっていて……おまけに外じゃ風がびゅんびゅん呻って木を倒さんばかりの勢いで。
 人肌が恋しかったんだろうか、と思うと、たまらなく触れてやりたくなった。
 オイラは廊下側の席で、たまたまこいつが廊下を歩いとるんを見つけただけだが。オイラを見つけた時のこいつの反応は、そりゃもう目を見張るばかりの素早さだった。
 ひざの上で丸くなっとるネコは、目を閉じて、ひゅっと細い、笑ったような線を作っとる。特だな、お前、その顔はよ。
 手をぴくぴくと動かし、気持ちよさそうに眠るネコ。
 首を撫で、さらさらとした毛に触れた。小さな柔らかい生きもんって、何でこんなに可愛いんだ?
 しかしそんな思いの一方で、オイラの足はこいつが落ちんようにとぴしっと揃えとるもんだから、だんだんプルプル震えてきた。
 うおお、修行で鍛えとらんかったら、オイラこいつの眠りなんてあっちゅーまに台無しにしてたに違いないぞ。
 ズボンにネコの毛がついて、アンナに怒られるだろうな――なんてことを、考えた。
 家で眠ってるだろう、アンナのことを思う。
 ――熱は下がっただろうか。苦しんでねぇんだろうか。
 朝、風邪ひいてるくせに厳しい口調で「学校に行け!」と言いきったアンナ。ホントは寂しいだろうってことくらい、分かっとるけど。
 休んだら休んだで怒られるし、何よりアンナが望んじゃいねぇし。
 でもどうせ授業なんて子守唄だ。オイラもネコと一緒に丸くなる。
 ――寒かったんだろうな。あったかいもんを求めて、こんなトコまできちまったんだな。
 何となく、オイラが守ってやらなきゃなんて思った。
 震えるひざをこらえながら、せめてしばらくは暖かな寝床をやりたいと思う。
 別にそんなぬくもりが、オイラである必要なんてあるわけじゃないんだけど。
 でも、何だか、オイラが守ってやらなくちゃって思ったんだ。

 「葉くん、授業終わったよー…――ってうわぁっ、何だ!?」
 眠りこけていたオイラに近づいたまん太が、オイラのひざの上で眠ってるもんに気付いて声をあげた。誰一人として気付かんかったもんに、小さなまん太は驚きの声をあげる。
 ――オイラ、たまにお前が特をしてると思うぞ。
 「んあー……ネコな、何か知らんが落ち着いちまってて…」
 授業が終わって、みんなぞくぞくと帰っていこうとしとるんだが、オイラはこいつがぐっすり眠っとるもんだから困り果てる。――おいおい、こいつ痙攣までしとるぞ。なんちゅう深い眠りなんよ。
 「何か…葉くんみたいだね」
「うえ?」
「ユルイから」
 あ――。納得だ。
 「でも連れて帰るつもりはないんでしょ?」
「ん……ああ」
 こいつはこいつで、それなり生きてきて。毛ヅヤもいいから、たぶん食べもんにも困ってないんだろう。誰か食べもんを与えてる奴がいるはずだ。こいつが消えたら、そいつが悲しむかもしれん。
 このネコ自身がオイラんとこに来たいって言うんなら、話は別だけどさ。
 まん太との話し声のせいか、ネコが目ぇ覚ました。
 う〜んとのびをして、顔を洗って、ひざの上でまた場所を作ろうとするから、オイラはその小さなネコを抱えて、床に下ろした。オイラももう帰らんといかん。
 ネコはオイラを見上げた。
 「じゃあな、せめてあったかい場所に行けよ」
 ネコはひゅっと目を細めて、分かってるよとでも言いたげな表情をして、廊下を歩いていった。
 どこに行くのか知らんが、どこかに行って、また誰かを見つけて、オイラのひざ以外のあったかい場所に、また長いこと居座るんだろう。
 ボウジャクブジン。――ビジン。

 「ただいまー」
 オイラは玄関で靴を脱いで、鞄を置く。
 アンナは寝とるんかな。熱が下がっとったらいいんだが……。
 氷枕とか一切合切を取り替えてやらんとな、と考えてると、ぱたぱたと足音が聞こえた。
 「? アンナ?」
「……っ」
 階段の上、寝巻きを着たアンナが突っ立っていた。
 寒いだろう、そんなカッコで……。言おうとして、口をつぐんだ。
 少し泣きそうな顔をしながら、顔を赤くして、オイラを見下ろすアンナ。
 身体が震えとる。
 ぐっと、何かをこらえとる。
 今にも階段を下りて、オイラの元へ駆け寄ってきそうなのに。それを、あいつは躊躇っとるんだ。――あのネコを、思い出した。
 素直に甘えられん性格なんは、オイラだってよくよく知ってる。
 どうすればいいかも、少しは心得てるつもりだ。
 見つめて、ちょいちょいと手招きをしたら……アンナはダッと階段を下りて、オイラにぎゅっと抱きついた。
 「……おかえり」
「それ…あたしのセリフよ……」
「ん? そうか」
 ウェッヘッヘ、と笑うと、アンナもつられて笑った。
 「寂しかったんか?」
「……ん」
 オイラの腕の中で、小さく、素直に肯くもんだから、可愛くて仕方ない。
 柔らかな髪を撫でる。――熱は下がったみたいだ。
 首筋を撫でる代わりに、唇と、舌を、しっとりと這わす。
 「……ぁっ」
 高く、ネコのような声をあげるアンナ。少し乱れた寝巻きを、このまま剥がして撫でたくなったが、いかんいかんと思いとどまる。
 「ここは寒いから、部屋戻るぞ?」
「……うん」
 風邪を引いて、少ししんどいと、アンナは甘えたくなるらしい。そんなに素直には甘えてくれんけど、今までにも何回かそんなことがあった。
 でもあくまで、甘えようとする相手はオイラだけ。
 オイラだけのアンナの姿。
 少し潤んだ瞳で見つめるもんだから、さっきみたいには堪えきれんこともしばしばだ。甘えられることに甘えて、食っちまっては殴られる。
 他の奴なんて存在しないことをかみしめながら、オイラはアンナを布団に寝かせた。
 ぐっすり安心した顔で眠るのも、オイラの前だけ。――高く鳴くのも、オイラの前だけ。
 元気になったら、またオイラだけに鳴き声をあげる姿を見せて貰おうなんて考えながら、安心しきった顔で眠るアンナの手をそっと握った。









懺悔。


ほのぼのをね、目指したつもりだったんですけど……
待って! 違う! 何か違う!
これじゃあ葉さん、なにも知らない嫁をいいことにアレコレいけないこと考えてるだけじゃないか…!!
と、気付いたんですけどどうしようもなくなってました。

違うんですよー
あのネコは自分のじゃないから、守りつつも割とあっさり手放すんだけど
アンナは自分のだからなにが何でも手放さねぇぞ、みたいな雰囲気を…出したかったのに!!


しかし風邪ネタ…一回は書きたかったのにこんな形になるとは思ってもみませんでした。

そしてネコが何で授業中に…と思うかも知れませんが、
わたしは実際に90分間ネコをひざに抱えて授業受けマシタ!
あまりに気持ちよさそうに眠ってるから起こせませんデシタ!!
因みにこの話もその授業中に書きました!
以上、さいてぇな暴露話終わり。