そば。
「おお、紅白見てんのか?」
そばを盆に乗せた葉が、居間に顔を出した。
「ええ…」
あたしはチラリと葉を見て、また画面に視線を戻した。
大掃除も(葉が)終え、餅も飾り終えて、そばを食べながら紅白を見れば今年も生き延びた実感が湧く。
「ボブはまだ出てねぇよな?」
葉がこたつの上にそばをふたつ置いて、やっとこたつに潜り込んでからあたしに聞いた。
「まだよ」
今年も出られたなんて奇跡的ね、といいながらそばを寄せて箸を取る。
「それを言うならあわやりんごもだろ」
葉も箸を手に取りながら言い返す。
いつかも似たような会話をした気がする。
――…あの時は、頬が熱かった。
あれからたった4年。4年しか経ってないのね。
「こうして一緒にそば食ってるのって、当り前みたいだけど変な感じだな」
葉がそう言ったので、あたしは心を見透かされたのかと思った。けれど葉が言っているのは違う意味だった。
「日本中が当り前みたいにそば食ってんだぞ? よく考えりゃ変じゃねぇ?」
「…そんなの、おせちだって同じでしょ」
そりゃそうだ、と言ってから、葉はそばをすすった。
――あれから4年。たった4年。
なのに、この距離の違いは何なんだろう。
あたしの向かい側に葉が座って、当然のようにそばをすする、この距離の違いは。
「葉――」
「んお?」
「…」
しばしの間、見つめる。
「な、何だよ」
葉が少し頬を染めて、戸惑った表情を見せる。
「そば、おいしいわ」
「…そりゃよかった」
葉はホッとしたように言って、ユルく笑った。あたしに文句でも言われると思ったのかしら。失礼な男ね。
「ねぇ」
「ん?」
葉はテレビに移していた視線を、再びあたしに向けた。
「来年も、再来年も、そばをよろしくね」
「ん…?」
「そば。あたしの為に。作るのよ、ぜったい」
ひとことひとことに力を込める。拒否なんかさせてやらない。
「――そんなの、オイラでいいなら、何度でも作ってやるよ」
葉は少しだけ頬を染めて、あたしから少し視線をそらして、でもハッキリと言う。
「…そう」
あたしも少しだけ頬が熱くなって、でもそれはそばの湯気のせいにして、そばを口に運んだ。
"何度でも作ってやる。"
それだけの言葉に、鼓動が早まる。頬が熱くなる。――少しの間、沈黙が流れる。
お互い、胸の内にある思いを告げきれていないような…。
でもこれ以上何も言わなくても、既に伝わっているような、奇妙な感覚に捕らわれていた。
「…」
「…葉」
「アンナ…」
目が合って、こたつの上で片手を重ねる。葉のぬくもりが、手のひらから身体中に広がってゆく。
葉が身をあげようとした、その時――
「こんばんわー。葉くーん、アンナさーん、いるー?」
玄関の方から聞き慣れた声がする。
あたしの目の前に迫っていた葉の顔が、一瞬の驚きの後に落胆した表情に変わった。
「…まん太と約束しとったんだ…初詣」
「そう」
残念ね、と言って、あたしは立ち上がった。
「アンナぁ〜」
葉があたしを見上げる。何よ、約束したのはあんたでしょうに。
情け無い顔の葉に笑いがこみあげる。
「ほら、まだ時間あるでしょ。まん太の分のそばでも作ってやりなさいよ」
「……うい」
葉はこたつに手をついて立ち上がる。
「あ、そうだアンナ」
葉に呼ばれ、振り返る――と同時に、唇に何か、温かいものが――。
「ん…そばの味がするな」
あっという間に離れた葉が、笑いながら言った。
「っ…おばか」
さっさと行け、と背を叩く。
「ウェッヘッヘ」
ユルく笑いながら、葉は玄関に向かった。
「本当に……ばか…」
あたしは小さく呟いて、まだぬくもりの残る唇に、手でそっと触れる。
あたしはこの味を、何度も味わうのかしら。ずっと味わっていられるのかしら。
――"何度でも作ってやる。"
また、あの言葉が浮かぶ。頬を染めた葉の横顔。熱くなるあたしの頬。
この先も、きっと、ずっと……。
あたしのそばを、よろしくね。
懺悔。
何だか乙女アンナ。
蕎麦と側をかけております。伝わってない可能性大です。
(ぶっちゃけ時間無かったです……!!)
要するに、
「そばを作れ」「んなもん何年先も任せとけ☆」っていう感じの、
「君の作ったみそ汁が飲みたい」的なプロポーズがさせたかっただけです。すみません。
ちょうどルヴォで葉がプロポォズしたのと同じ日。
またもやプロポーズなふたりです。(趣味丸出し)
初めて二人だけ(?)で過ごす大晦日、という感じで…。
あれ(←ルヴォ)からたった4年と言ってますが、そこからたった2年で3人家族になります。
1年って大きいですよね。(笑)