魅惑のトレーナー

オイラが台所に立って夕飯の片付けをしてると、パタパタと裸足の足音が廊下の方で聞こえてきた。
アンナが風呂から出たんだな、と考えながら皿を洗う。
いつものように居間に来るだろうと思っとったら、パタパタという足音は階段を上る音にかわった。
「?」
何をやっとるんだろう? 思い当る事は何もなくて、首を傾げながら皿を次々と洗っていく。
しばらくしてからまたパタパタと足音がして、アンナが2階から降りてきた音がした。声をかけようかと思っとったら、アンナがオイラを呼ぶ声が聞こえた。
「ねぇ、葉」
振り返ると、台所の入口から顔を出しとるアンナがいた。
「んお? どうした?」
「あたしの浴衣、どこ?」
「うえ?」
何を言っとるんだ? 浴衣なら、風呂上がりのアンナが着とるんじゃ…そう思ってしげしげとアンナを見つめると、入口の端からちらりと見えるアンナの肩は…むき出し!?
「な…無かったんか、浴衣!?」
いつもなら、脱衣所にアンナが自分で持っていくはずだろ!?
「うっかりしてて持っていかなかったのよ。お風呂から上がってから気が付いて、部屋に取りに上がったのに無かったの」
「そ…そうか」
オイラはいささか落ち着きを取り戻した。ふいうちでアンナの肌っつうのは…どうも、どきりとする。こうして光の下にいると、暗闇で見るのとはまた雰囲気が違ってくるし…。まだ濡れた髪が滴を垂らしてアンナの白い肌を濡らしていく様は、妙な色っぽさがあった。
「ゆ…浴衣な。オイラが捜してくる」
エプロンを外し、椅子にかける。角度が変わった所為(おかげ?)で、アンナの姿が見えた。バスタオル一枚巻きつけて…肩だけでなく、白いむき出しの足が…っ!
い、いかんぞアンナ、そんな格好オイラの前で…!
「アンナ…ッ」
「え?」
いきなり服を脱ぎだしたオイラを見て、アンナが目を丸くした。
オイラはそんなアンナを無視して、脱いだトレーナーをアンナに無理やりその手に押しつけた。
「…?」
手のうちのオイラのトレーナーを見つめながら、アンナが不思議そうな顔をする。わからないといったふうにオイラを見上げた。
「そ、それ…着とけって。冷えたらいかんから」
「…うん」
アンナは素直に、小さくうなずいた。かっ可愛い…!
やめてくれ、オイラには刺激が強いんよ!! 何とか保たせてる理性をこれ以上壊そうとせんでくれ……!
胸を打ちつける鼓動を押さえこみながら、オイラはアンナをなるべく見ないようにして脇を通り抜け、階段へ向かった。まだドキドキ言っとるが、あの柔らかそうな肌を忘れるために必死に頭ん中で浴衣の行方を追う。――洗濯物をとりこんで、アンナがワイドショー見とる横で畳んで…ああ、あの時もアンナの足がちらちら見えるんよな……って違う、そうじゃなくて! 服の類はそれぞれの部屋に持っていくはずだ。うん、部屋にあるハズだ……。
オイラは一応、アンナの部屋も見て(オイラが踏み込めるエリアなんか狭いから、無いのは一目で分かった)、それからオイラの部屋を見た。
部屋の隅っこで自分の服が重なっとる山をくずすと、オイラの浴衣の下から、同じ色をしたアンナの浴衣が、ひょっこりと顔を出した。紛れちまってたんか…。
そういや、アンナが見とったワイドショ−で、気になる特集やってたからついついそっちに気ぃとられてたんだ。ボーっとしてたし、手早く片づけようとしてた記憶もある。テキトーに振り分けちまったみたいだ。
オイラは頭を掻きながら、まぁ見つかったんだし、と自分をなぐさめる。
階段を下りて、アンナに「見つかったぞ」と声をかけた。きっと居間におるんだろう…と、思っとったら、アンナが台所の方からひょっこり顔を見せた。
「うおっ!?」
「何よ」
アンナがギロリとにらむが…待て、アンナ、違う…
「そ、そのカッコ…!」
「…何なのよ。あんたが着ろって言ったんじゃない」
アンナは不機嫌そうに言う。
しかし…その、オイラの言葉通り、トレーナーを着とるアンナは…袖からちょろっと手が出とって、サイズが大きいもんだから胸元が広く開いてて、見えそうで見えなくて、そんで何より足……足が、白い柔らかそうなふとももが裾から…っ!!
これはっ……オイラのトレーナーを着とるんだ、つう意識がある所為なのかも知れんが、何ちゅうか…いかにも食べてくれって言ってるようなもんじゃねぇか……!?
オイラ、バスタオル一枚のアンナの格好なんか見たら絶対冷静でいられんから、自分のトレーナーを差し出したんよ? そりゃ、本当に冷えちゃマズイとも思ったんだが。
けど……この、オイラのトレーナー一枚を着とるアンナは……バスタオル一枚よりも、まずいぞ。裾が短くて、軽く抱きしめただけでするりとめくれ上がりそうだ……って、何考えてるんよオイラ!?
「葉?」
アンナが怪訝そうな顔でオイラを見上げた。
「…っ!」
大きく開いた胸元から…アンナの柔らかそうな胸がちらっと見えた。
「んなっ…!」
「?」
「何しとったんよ、台所で」
とたん、アンナが少し目をそらして頬を染めた。この状況、その服装で頬なんか染められたら…オイラ、襲っちまうぞ!?
「お茶…入れてたの。あんたもついでに飲む?」
そう言うが、机の上には湯飲みがふたつ。珍しく入れてくれた茶に感動しつつ…その格好で湯飲みを出したり、きゅうすに湯を入れてくれたり、ちょこまか動いてたんだろうとか想像すると、妙にどきどきした。
アンナがふいに、指が少ししか出てない手を差し出した。この手を…引き寄せてだきしめて、トレーナーを着せたままやらしいことがしたいって気持ちと、いやいや、んなことしたら殺されるという理性(いや、むしろ野生の本能)とが葛藤する。
「ちょっと」
「うえ?」
「浴衣。あったなら渡しなさいよ」
ああ…それで手ぇ差し出したんか。手に持つ浴衣を見て、これを渡しちまったら当然トレーナーは脱ぐんだよな、と考えて勿体無くなる。
「なぁアンナ…」
「なに」
「その…もう少し、その格好でいてくれんか?」
「はぁ?」
 アンナが怪訝そうな顔でオイラを見た。う…そりゃ、オイラだって自分で変なこと言い出してんのは分かってっけどさ……。さっきから何か思考はおかしい。
「いや…その、トレーナー…可愛ぃ」
バチンッ
「いっいやよ!何考えてんのよ!?」
アンナが顔を真っ赤にさせて怒鳴った。当然の反応だな…。
「いや…だってさ、そんなに可愛いのに勿体ねぇ…」
「バカッいやらしい! 第一こんな格好寒いじゃないのよっ! 足なんか特に…」
「だから…オイラがあっためてやるって」
アンナは嫌な予感がしたように、少し身をひく。オイラはアンナの服を掴んで引き寄せ、抱き寄せた。拍子にオイラの手からバサリと音をたてて浴衣が落ちる。
オイラは気にせず、アンナのむき出しの足に触れて、そっと手を這わせた。
「きゃっ!」
アンナは思わずといったふうに声を上げ、オイラにしがみつく。更に手を動かして、その柔らかく滑らかな肌を撫で、徐々にその手を上に…
「ちょっと、調子にのるんじゃっ…!あっ」
下着に触れた時、アンナの口から艶っぽい声が漏れた。慌てて抑えるように手を口元にもっていくが、指先が少し出てるだけの姿が可愛くて…。
「アンナ…オイラ、したくなっちまったんだが…」
「やっ…よ! 何言ってんの!」
「…」
既に赤い顔で言ったってなぁ…。
もう少し足をそうっと撫でていけば、言うこと聞いてくれんかな? このまま押せばオイラに有利かもしれん…!
「なぁアンナ、いいだろ?」
耳元で囁いて、そのまま頬にくちづけて、唇にオイラのをそっと押し当てたら、アンナの体は震えて、オイラの服を掴む手にぎゅっと力を込めた。
気分が良くなって、柔らかな足を更に撫でていきながら囁く。
「なぁ…」
「いっイヤっ」
ムッと顔をしかめたら、アンナがそろりとオイラを見上げ、恥ずかしそうな顔をしながら言った。
「こ……ここじゃ、いやよ…」
その答えを聞いて、オイラの頬がゆるゆると緩んでくるのが分かった。
「じゃあ、オイラの部屋に行くか?」
「…」
返事がないってことは、嫌ってわけでもないらしい。逃がすもんかと抱き締めていた手を緩めて、オイラは微笑んだ。ちょこっと出とる指先を握る。
オイラのわがままは、たまにこうして実を結ぶ。
さっき浴衣を探す為に上ったはずの階段を、今度は浴衣なんか忘れ去って上った。
まったく…オイラはホントに、ヘンなことは考えてなかったんだけどな。自分のトレーナー着せちまったのがオイラの敗因なのか勝因なのか…。
まぁどっちでもいいや、と思いながら、オイラは部屋の襖を開けた。

――因みに、一階に浴衣を放ってきちまったオイラは、朝になって裸のまんま夜の余韻を残す嫁さんに、もう一度自分のトレーナーを着せる事に成功した。
予期せぬ幸運っつうのは、意外に続くもんなのかも知れん。










懺悔。

ひたすら阿呆な旦那様が書きたかったのです(笑)
やっぱりほら、楽しい企画ですからv
攻め旦那にしようと思ったのになかなか…
考えてる事はバッチリ攻め×2だったんですけどどこかマヌケです。

にしても題名…悩んだけど結局いいのが浮かばなかったのでAHOタイトルのまんま。(笑)
魅惑のトレーナー…あまりにまぬけな題名だなぁ。