眠る前のあるひとときの会話。


遅くまで歌番組を見ていたオイラを放って、妻はとっとと部屋で寝ていた。
まだ耳に残っとるボブの新曲を小さく口ずさみながら、オイラは部屋に入る。
さきに布団に入って寝とったアンナが、少しもぞもぞと動いた。
「んあ? 起こしちまったか?」
オイラはしまったと思い、声をかけてみる。
「…」
返事はないが、起こしちまったんだと何となく分かる。
しまったな…でもまぁどうせ、オイラが布団に入った時に気付いたかも知れん。
オイラはアンナが寝ている布団を少しだけめくって、そそくさと潜り込んだ。
もし寝とったなら悪いな、と思いながら、オイラはこらえきれずに嬉しかったことを話してた。
「ボブの新曲さ、結構いいんだぜ」
頭の中にさっき流れてた音楽が、もう一回よみがえる。
「やっぱ買おうかなー」
「…お金ないでしょ」
小さくアンナが答える。やっぱ起こしちまってたか。
「ウェッヘッヘッ、やっぱダメか?」
「ダメ」
きっぱり言い放つ妻に、二の句が継げない。
ういーまぁ仕方ねぇけどさ…。

時計の音が、静かな部屋に響いた。
まだまだ寒い時期。
なるべくアンナに近づいて、暖かさを分けて貰おう。
そう思ってもぞもぞとアンナに近づいたら……
「冷てっ」
アンナの足にオイラの足が触れた瞬間、その冷たさに思わず声をあげた。
「何だよ、お前の足、めちゃめちゃ冷てぇじゃねーか」
「うるさいわね…」
アンナはこちらを見ようともせずに、不機嫌そうに小さく呟いた。
「寒いんだから仕方ないでしょ」
「っつってもよ…お前、もう少しあっためる努力とかした方がいいんじゃねぇか? 妊婦は身体を冷やしちゃいかんって母ちゃんが言ってたぞ」
「……。どうしろってのよ」
そう言って、アンナが初めてオイラの方を向いた。
「んー? そうだな…ほれ、靴下はいて寝るとか……」
「嫌よ。ごわごわして気持ち悪いじゃない」
「んなこと言ってもよ……」

ふたりでひとつの布団に入りながら、とりとめのない会話をする。
「湯たんぽは?」
「朝には冷たくなってるのが嫌」
「じゃあ毛布を足下だけに詰め込んで……」
「どうせあんたが寝てる間に蹴飛ばしてるわよ。あんたは体温高いから」
……否定できねぇ。
実際、何度か布団を蹴飛ばして、朝になってアンナに「寒い!」とこっぴどく叱られたことがある。
「ん〜…じゃあもう、オイラが直接暖めてやろうか?」
「いやらしい…」
……どうしろって言うんよ?

下らない話をしながら、オイラは段々眠気がしてきた。瞼が閉じようとするのに任せる。
「葉…」
「……ん…?」
「おやすみ」
「…おやすみ……」
頬に柔らかくて温かいものが触れた気がしながら、オイラはそのまま眠っていた。

朝。
「起きろ!」
「ぐえっ」
アンナに腹をけっ飛ばされて、オイラは目覚めた。
「な、何するんよアンナ……」
腹の痛さにうめきながら、オイラは一応抗議してみる。
「起きるのが遅いのよ。夜中の番組なんか見てるからでしょ」
「うい…」
非情なひとことと腹の痛さに、思わず涙がこぼれそうになる。
腹を抱えてうずくまりながら、何とかアンナの方を見ようとしても、なかなか顔が上げられない。
見えるのはアンナの足下だけだ。
「ん…?」
目にとまったものの存在に気付いて、オイラは思わず呟いた。
「アンナ……」
オイラを蹴り起こしたその足には、白い靴下が履かれていた。
「とっとと起きなさいよ」
アンナはそれだけ言って、部屋を出て行く。
あったかそうな靴下は、アンナが歩くたびにその動きを合わせて踊る。
オイラは思わず微笑んでいた。

眠る前の何気ない会話だが、アンナはきっちり聞いててくれたらしい。
こういうのに小さく幸せ感じんのって変なんかな?
オイラはゆるゆる緩む頬をそのまんまにして、大きくのびをした。
今日も寒そうだが、いい天気だ。
眠ってる間は靴下を履きそうもない嫁さんには、やっぱり直接肌であっためてやる方策をとろうか?
オイラはひとつあくびをして、布団から這い出した。







懺悔。

この前のジャンプで嫁が靴下はいてたから……。
茎子さんに言われたでも木乃に言われたでも、
雑誌で見たのでも自分で気をつけたのでもなく、
旦那が何気なく「靴下履け」とでも言ってたらいいなーとか思っただけです。
それだけ。(笑)

短くてごめんなさい。
もともとこばなしにしようとしてたんですが、こばなしにしては長かったんです。