祭りのあと


 「アンナー、笹片づけるからなー」
 いい加減七夕気分でもないだろう、ってことに気づき、オイラはアンナに声をかけた。
 庭からアンナの部屋に声をかけるのは割としょっちゅうある。修行が終わったぞーとか、たまにはHEIYUに行く前に誘いなんかもかけてみたり。
 今回も常の癖から声をかけたわけだが、笹を片づけるのが特に悪いわけもないだろうと思って、オイラは返事を待たずに笹を支えている紐をはずしにかかった。また近所の神社にでも持ってって焼いて貰おう。そう思いながらはずした紐を縁側に置き、支えを失った笹がゆっくり倒れる様に手を添えた。
 が。
 「待ちなさいっ」
「うぇっ!?」
 唐突に上から声が降ってきて、オイラは飛び上がった。
 声の主がアンナだって事も、言ってるのが笹を片づけるな、って意味なんも瞬時に理解できたんだが、いかんせん身体はそうやすやす反応してくれん。車が急に止まれんのと同じだな、きっと。
 手で止めようと思い立ったときには、既に地面へとむかって加速していた笹が、葉がこすれ合う音と共に庭に倒れた。
 「す、すまん…」
 言った頃には、アンナが窓を勢いよく開ける音が聞こえた。
 「倒したの!?」
「え、あ、おお」
 何をそんなに焦っとるんだろう、と首を傾げる。アンナの視線はオイラを通り越したところに注がれていた。そこに何があるんだろうと後ろを振り返ると、笹のてっぺんだった部分がかわいそうなほどぺしゃんこになって地面に横たわっている。アンナの短冊も、そこにあった。
 「あ…」
 短冊。そうか。
 あれだけ空に届かそうとしていたアンナの願いが、地面にぽつんと残されているのを見て、オイラは無性に申し訳なくなった。
 「す、すまん、短冊…」
 2階を振り返ったら、窓にはもうアンナの姿は無かった。
 階段を駆け下りる音が聞こえる。
 アンナは意外とこういうもん信じてる感じだし、短冊がかわいそうで(オイラの『楽々』はまぁ、いい。)、せめて地面よりは高いところに願い事をと思い、そばに寄って拾い上げようとした。
 そういえばアンナの願いって何だったんだろう。ふと、短冊の中身を自分が知らない事に気づいた。だからといって別に見る気なんてなかったんだが、どっかで見てみたいと思たのかも知れん。拾おうとしゃがみ込んだときに、短冊の文字を見てしまった。
 ――"葉がいつまでも元気でいられますように"…
 「…っ!」
 心臓が、ぎゅうっと痛んだ。鷲掴みされたみたいに痛い。そのまま握りつぶされてちっこくなっていきそうな、それでいて大きく跳ね上がるような、奇妙な感覚にとらわれた。痛い、と同時に、どこからか沸く嬉しさで押しつぶされそうになる。
 ――嬉しい、つうのを理解した瞬間、一気に血が上って、頬がかぁっと赤くなるのが自分でも分かった。アンナの願いってのは……
 「葉ッ!」
 その声で我に返り、縁側を振り返ったら、アンナが鬼の様な形相で立っていた。
 「アンナ……」
 オイラが手に持つ短冊に視線をやって、アンナは低い声で言った。
 「見たわね、あんた…っ」
「…うん」
 おとなしく返事をするオイラに、逆にアンナが拍子抜けしたみたいだった。
 「うんって…」
と、怒りとも呆れともとれる声を出す。
 「見た。これ」
 アンナの短冊を差し出すと、アンナが表情を硬くした。
 「返して、あたしのよ」
「…うん」
 素直に手渡すと、自分で短冊の文面を見て(たんだと思う)、今度は赤くなった。やっぱり、アンナは照れてる。というか、ばつが悪いのかも知れん。
 「…見た」
 オイラはもう一回事実を告げた。
 「嬉しかった」
「…別にあんたを喜ばすために書いたんじゃないわ」
 短冊を握りしめ、さっきから合わせようとしない視線を更にそうするためか、アンナは顔を背けた。横顔は赤く染まっていて、心細げにまつげが揺れる。そんな様子が可愛くて、どうしようもないほどの感情が溢れる。
 申し訳ない、と思った。思ったから胸が痛かったのかも知れんし、もしかしたら単に嬉しさで舞い上がって痛かったのかも知れん。よく分からんが、彼女に想われてるという事実が、痛いほどに強烈なものだった。
 けれどこうしてアンナの横顔を見つめると、どうしようもなく単純に、嬉しい、と思ってしまう。愛おしい、と。こいつが好きなんだって、嫌と言うほど思い知らされるし、それを今更思い知る自分もなんだか情けなかった。
 単純だが、そういう気持ちにアンナの優しさが相乗され、好きだと確認すれば衝動に駆られるままに細い身体を抱きしめていた。
 「なに…っ」
 アンナはオイラの腕の中で小さく悲鳴をあげた。
 「ありがとう、アンナ」
「…なぜ」
「何でも」
「未来の夫の健康を願って何が悪いの」
「何も」
「あたしの夢、イコールあんたの健康。だってシャーマンキングになってもらわなきゃ」
「そうだな」
「だから当然の事なのよ。あたしの未来の為なんだもの」
「うん」
「だから」
「アンナ」
「だからあたしの」
「好きだ」
「…」
 滅多にない言葉に、アンナの口が止まった。
 オイラだって止まった。何となく、言わずにはいられなかったんだ。何となく、なんて言ったらアンナは怒るだろうか。
 「何よ……狡いわ」
「何がだよ」
「短冊の代償みたいじゃない、今の言葉」
「そうか?」
 オイラは真剣に首をひねる。取りようによっちゃそうかも知れんと思ったが、何となく認めるのは癪だった。
 「言いたかったから言ったんよ。アンナが照れ屋なとこ、優しいとこ、でも隠しちまうとこ、全部ひっくるめてそう思ったんだ」
「…」
 しばらく黙っていたアンナが、そっとオイラの背に腕を回して、抱きついてくれた。
 「…ズルイわ」
「…そうか?」
「あんた、これ以上あたしを捕らえてどうしようっていうのよ…」
 ――ああ、もう。
 「それはこっちのセリフ…」
 オイラの心を捕らえて離さないのは、アンナの方だろ。そう言いながら向かい合ったら、自然とそんな気分になって、どちらからともなく唇を重ねた。何度か角度を変えて、ちょっとだけ舌先を触れあわせてみたり、もっと絡ませあったりして、夢中になって求め合う。
 息が上がってきた頃に、少し身体を離して、オイラはぼそぼそと声をかけた。
 「アンナ…非常に言いにくいんだが……」
「…?」
 オイラを見上げる彼女の、赤く色づいた唇に一瞬目を奪われ、頭の中が白くなる。
 「なに…?」
「…」
 熱い息が首筋にかかり、ゾクリと何かが駆け抜ける。ためらいも通り越して、オイラは言葉にしていた。
 「部屋に行こう…」
 耳元で囁いたら、アンナの身体がびくりと震えた。ぎゅっと力を込めてもう一度強く抱き寄せる。
 ――どうしようもなく溢れきた愛しい女への感情ってのは、やっぱ行為を伴って表されると思わんか?
 もっともらしくそう言えば、アンナは小さく肯いた。










懺悔


えと、30000hit感謝フリーということで…。
亀以上のトロさで運営しているこんなサイトに足を運んで下さいましてありがとうございます。(ぺこり)
毎回季節モノのような気がしないでもないですが(笑)、
もしよろしければ貰ってやって下さいませ!

「ひみつの七夕」後の話。
好きな女の子が短冊に自分の事を書いてくれてるって(それもコッソリ)、
ものすご〜く男冥利に尽きると思いません?(笑)
もう既にどこかで書かれているかも知れないネタですが…。

とにかく想われてる事に気づいたときの葉が描きたかった。
…はずなのに、何やら半端になってしまいました。
このサイト初の、マトモな告白シーンなのではないでしょうか。(笑)


因みにタイトルはサザンからです。吉田拓郎ではなく。